消えた王子(上下)

消えた王子(上) (岩波少年文庫) 消えた王子(下) (岩波少年文庫) 消えた王子(上)

消えた王子(下)
フランシス・ホジソン・バーネット
中村妙子 訳
岩波少年文庫


『小公子』『小公女』『秘密の花園』で知られるバーネットの最後の児童文学作品、とのことです。
挿絵がレナード・ワイスガードというのもびっくり嬉しいです。


悪政と内紛が続く小国サマヴィアでは、伝説の真の王位後継者であるイヴォール王子が待たれていた。500年も前から。
そして、ついにそのときは来た。
いずれ祖国サマヴィアのために働くことができるようにと父のもとで厳しい訓練をつんできたマルコ少年と親友ラットは、
「ランプがともった」という伝言を携えて、ヨーロッパじゅうをめぐり歩きます。
サマヴィアのために命を捧げようとする同志たちのもとへ、「合図の伝達者」として。
いったいイヴォール王子はどこにいるのでしょうか。
サマヴィアは救われるのでしょうか。


二人の旅の途中の出来事、さまざまなアクシデントが見せ場になっています。
目指す相手にどうやって接触するか、また目指す相手がいるべき場所にいないとき、どうやって探し出したら良いのか・・・
目的地も、町の中、山の中、オペラハウスにお城にお屋敷、町の理髪店やら修道院・・・
王道の冒険物語で、わくわくどきどき。主人公は子どもながらに、容姿端麗、品格ある人格者、否の打ち所がないのです。
この本、『小公子』に憧れていた子どものころに出会いたかったなあ。そうしたら、きっと夢中になっただろうなあ。


主人公より脇役ラットのほうがおもしろいですね。
足が不自由で、酒びたりの父親にぶん殴られて物乞いしながら暮らしていた少年。
それでも彼は素直で勤勉なのですね。頭もいいし、努力家です。
しかし、すぐかっとなりやすいし、うらやんだりねたんだりする心を抱えて悩んでいたりもします。
多くの美質を持ちながら、同時に弱みもたくさんもったラットは、あまりにできすぎで美々しい主人公よりも身近だし、魅力的でした。
そして、気高いものに憧れる気持ちが満たされたとき、ぐんと彼は成長します。
ラットの成長の物語がおもしろかった。


「彼(消えた王子)はずっと昔の人だ。長い一生でもなかったかもしれない。五百年も前のことです。でも生きていたときにはすばらしい若者だった。だから王子を覚えているものはみんな、何かいいこと、素晴らしいことを考えた。・・・・・・だとしたら“消えた王子”はすごいことをやったことになる、そう思うんです。たった数年、生きながらえたことによって、何よりも、彼という人間であったことによって。」
「・・・読書って、旅行と同じで、知らないうちに学んでいるんだよな」
・・・ラットの言葉として、大切なことがぽろりぽろりと語られているのも印象的でした。