つづきの図書館

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柏葉幸子
講談社


私が本のつづきを知りたくて、じたばたするように、本の中の人たちが読んでくれる人間のつづきが知りたいって思うときがあるんじゃないでしょうか。本の中の人たちが、自分を気にかけてくれるって思ったら、たのしくないですか。
                                     (あとがきより)
本を読むことは、本と対話することでもある、といいます。
対話というからには、こちらが一方的に相手のことを気に掛けているわけではなくて、相手もまたこちらのことを気に掛けてくれているのですよね。
でも、そんなこと、今まで考えても見ませんでした。
あの本この本の登場人物たちとわたしは、会って対話して、こちらがあの人たちのことを忘れないように、
あの人たちもこちらのことを忘れていないかもしれない、と思うとうれしくなります。
わたしが本の続きを知りたい、と思うのは、あちらのことが気になるからです。
このまま終わりでは納得がいかない理由があるからです。
ということは、本の中のだれかが、本を読んでくれる子の続きを知りたい、ということは、やっぱり、その子の何かが心配なのでした。
普通の子です。
笑ったり泣いたり、きっとどこにでもいる子。
そして、図書館の本なら、たくさんの子どもたちがその本を手にするだろうに、ことさらにその子のことが気になるのは、やっぱり何かがあるのです。
その子だけの問題ではなくてその子をとりまく人々の問題でもあるわけです。
誰にも言わない、言えない、その子の「何か」を気づいて、本のなかから心配してくれる人がいる。
そして、そのことを相手に告げるよりも何よりも、ただ、その子がどうなったか知りたい・・・、
そのいじらしい気持ちがなんともうれしくて、やっぱり本ってやさしいな、本は友だちだな、と思えるのです。


主人公の桃さんはいろいろとあって、生まれ故郷の町の図書館司書になりました。
中年の全然ぱっとしないおばさんです。
「司書は図書館の本の世話をするのが仕事じゃろ」って、こういうお世話も司書さんの仕事なのでしょうか。
なんか違うだろう、といいたいけど、人のいい桃さんは、「つづき」探しのお手伝いをすることになるのです。
裸の王様、オオカミ、あまんじゃく・・・
あれこれの絵本のあいだからやってきた人たちの知りたい「つづき」の話はどれもこれもそれぞれに少しせつないのですが、
その話のまわりにほんのりと暖かい物語がさりげなく寄り添っている感じがします。
子どもはひとりでは生きられない、大人もひとりでは生きられない。
一人で生きられないわたしたちでよかったよ、とそんなふうに思うお話が。
「つづき」をさがしていた本の人たちの存在を、さがされた人たちは知りません。
そういう本に夢中になっていたときがあったことさえも忘れているかも知れません。
本の人たちは、そんなことはきっとどうでもいいんですね。
ただその子達のその後の幸せを喜んだり祈ったりするだけで・・・


「つづき」さがしの物語は、ひとつひとつが小さなミステリのようで、わくわくします。
そして、ひとつひとつ解決するたびに、「困った人たち」としか思えなかった本の人たちがほんとうにかわいく(?)思えてくるのです。
桃さんを中心にして、なんていいチームだろう、と思えてくるのです。


「不器用そうな子だね」
「どうせ砂をつかむみたいに、大切なものはみんな手の中からこぼれてしまったんだろう。どうして、上手に生きられないかねぇ」
とまで言われた桃さんが、「つづき」さがしをしているうちにどんどん変わってくるのがすてきなのですが、
この本にはもっともっと大きな「つづき」の物語がありました。


大人の女性が主人公なのを不思議に思ったのですが、この主人公は、やっと今ほんとうに自分の人生を生きはじめた子どものような人。
そして、本の中からやってきた人たちも、まとめて言うことやることまるっきり子どもそのものです。
みんな大人の姿をした子どもたちなのです。
子どもは大人になるし、大人はむかし子どもだったんです。
大人と子どもの境目って、あるところではぴしっとしていると思うけど、別のところではものすごくあいまいだったりしますよね。
そのあいまいなところから大人と子どもが行ったり来たりしているようなそういう感覚がいいんです。
そして、さらにもっと大きな理由があります。大人の女性をあえて主人公にした理由が。それは最後に・・・。


このつづきは、このつづきは、とつづきの物語がどんどんつながっていったらうれしい。
そして、大切な本たちは、大切な読み手を、ただ自分の手元に引き止めたりはしない、
ちゃんと背中を押して広い世界に送り出してくれるのだ、と、そんなこともうれしくなります。
そして、繰り返しますけど、やっぱり本は友だち、と大切な本たちがもっともっと好きになります。