砂金

砂金 (愛蔵版詩集シリーズ)砂金 (愛蔵版詩集シリーズ)
西條八十
日本図書センター


暗い海は
無花果の葉陰に鳴る、
蒼白めた夜は
無限の石階をさしのぞく。

一の寡婦は盲ひ
二の寡婦は悲しみ
三の寡婦は黄金(きん)の洋灯(ランプ)を持つ、
・・・・・
            (『石階』より)

美しく、ロマンチックな詩句が続きます。
童謡のようでもあるし、絵画のようでもあります。
でも暗く、時に残酷だったり、望みが絶たれたか、と思うような黒々とした淵が見えるような気がして不安になるのです。
怖ろしいのですが、正直、この怖ろしいもの・暗いものの正体がわかりませんでした。
真っ暗闇を覗いているような気がするのですが、そこにはなんとも言えない輝きもまたちらちらと見えるのです。
暗闇の中に宝石のような赤青緑の光がきらめいているのが見えるような気がする。モローの絵みたいに。そんな詩集でした。


好きな詩はいくつもあるのですが、印象に残るのは、↑にあげた『石階』
三人の寡婦が手に手に象徴的な何かを持って次々に現れる数え歌のような詩。
一つ二つと数える数え歌は、わらべうたみたいで好きなのですが、これは暗い闇の中に輝く弱い光。やがて消えて費えてしまう悲しい光。
この歌を読みながら、最近読み終えたゲド戦記二巻「こわれた腕輪」の地下墓所と巫女を思い描いていたのでした。


それから、九編の童謡。
『鈴の音』が好き。王様の金の馬とお供の泥の馬が通っていく情景を楽しみました。
「ほがらほがらに」首の鈴が「ちんからかん」と鳴るのを楽しみました。
また、歌を忘れた『かなりや』は、「象牙の船と銀の櫂」で忘れた歌を思い出したはずなのです。
でも、この詩のあとにすぐ続く『海のかなりや』はもうひとつの『かなりや』の歌でした。
『赤い緒紐でくるくると誡められて土の上」と救いがないのでした。


越山美樹氏の解題によれば、これは、八十の21歳から28歳までの詩とのこと。
放蕩者の兄に代わって一家の生計をささえるために文学の夢をあきらめた頃の詩集なのだ、とのこと。
この暗さに合点がいったような思いでした。
それにしてもこの美しさ。
闇も絶望も、妖しい美しさで、おぼれそうな怖さを感じる。
望みを絶たれた若き詩人は、やっぱり詩人だったのかもしれません。
自分の絶望の中に美しい宝石を見出そうとしていたのかもしれません。
言葉という魔法の力で。