影との戦い―ゲド戦記 1 アーシュラ・K・ル=グウィン 清水真砂子 訳 岩波書店 ★ |
ああ、おもしろかった!
4巻以降を読むための復習、と思っていましたが、かなり忘れていました。これはもう初読とおんなじ^^
未熟さゆえの驕りから、得たいのしれない影を解き放ってしまったゲド。
そのためにその後ずっと影に追われることになってしまいます。
オシオンの言葉が印象的です。
「向き直るのじゃ」
向き直る。簡単なことじゃないです。
でも一生逃げ続けるわけにはいかない、と思ったとき、向きなおる決心ができるでしょうか。わたしにも。
この本の巻頭に、この世界の神話であり知恵の書でもある『エアの創造』の一節が掲げられています。
「ことばは沈黙に
光は闇に
生は死の中にこそあるものなれ
飛翔するタカの
虚空にこそ輝ける如くに」
さらりと読んですぐに忘れます、こんな謎かけのような言葉。忘れてゲドといっしょに旅をするのです、わたしたちは。
でも、この言葉は、物語の最後にもう一度現れます。あれ、どこかで聞いた言葉だな、と。
でも、このときには、意味がわかるようになっています。冒険のあとだから。旅のあとだから。
何も知らされないままに、この言葉を巻頭で渡されて、長い旅をしました。
この言葉の意味を知るための旅だったような気がします。
忘れてさすらい、この言葉のうちに再び帰る旅だったような気がします。
インディアンの文化を知りたければ『ゲド戦記』を、と聞きました。
ファンタジーではありますが、名前のことも、死生観も、たぶんインディアンの文化に繋がるのでしょう。
それと同時に、わたしたち日本人の土着の信仰(?)にも繋がるものを感じています。
違和感がないのです。この世界に。
また、ゲドの旅から西遊記を思い出す。
どこまで行ってもお釈迦様の手の上だった、という話が、巻頭の言葉をめぐる旅に繋がるようにも思いました。
世界のはてまで旅するゲドですが、冒頭の言葉から外れることは無かった。
これは王道の行きて帰りし物語です。
でも、出かける前と帰ってきた後は、明らかにちがうのです。そこに同じ言葉が変わらずにあったとしても。
そして、これが、ゲド戦記の一番最初に置かれた物語である、ということも意味深いです。
このようにして完全な人間となり、初めて本当の世界に旅立つのです。
これは、子どもが大人になるための通過儀礼の物語でもありました。
さあ、ここから。