よろこびの歌

よろこびの歌よろこびの歌
宮下奈都
実業之日本社


公立高校であれば、それは、たぶん、ほとんどの子にとって第一志望校であり、望んで、努力してやっとつかんだ入学であっただろうけど。
ここは、私立明泉女子高等学校。地方の中堅新設高校です。

>口に出さないだけで、行きたい高校は他にあった子が多いはずだ。大事なのは、口に出さない、というところだ。あきらめてここに来たのだと感じさせない知恵だ。本当はここは第一志望じゃなかったの、と誰かが口を滑らせた時点で私たち全員が貶められてしまう。落ちて拾われてここにいるのだと認めなければならなくなる。
だけど、ほんとはそんなに単純でもない。それぞれに、なぜこの学校でなければならなかったのか、あるいは、この学校しかなかったのか、何某かの思いがある。
>この学校に集まった子たちにはそれぞれこの学校に来る事情がある。
だから、みんなそこそこに距離を保ちながら上手に付き合っていくことが必要なのだ・・・・と自覚している。
そんな高校の二年B組の少女たちを、一つの歌が繋いでいく。
do、re、mi、fa、sol、la、si。
それぞれの少女たちの心の葛藤の物語が紡がれます。この子達がほんとにかわいい。この子達の高校二年生の日々がとても愛しい。


彼女たちひとりひとりみんな事情が違って、それぞれに閉じ込めたくすぶる思いもあって、だから適当な距離を置いて付き合っていた友人たち。
それが、いつのまにか自分を見せることができるようになっている。
誰にだって口に出せないしんどい事情がある。
それは最初からわかっていた。
でも、今、相手のそのままを受けとめたいという余裕が生まれ始めている。
だから自分を見せることも怖くない。むしろ見せたい、と思う。
あきらめて始まった高校生活が、
「みんな選んでここへ来た。私も明泉を選んで入学した。今となってはそうとしか思えない。わたしはこの高校を選んだのだ。そして運良く私もこの高校に選ばれた。」
との思いに変わっていく。
だけど、それまでに一体何があったのか。「歌うこと」の何が彼女たちをとらえたのか。とらえられたのか。
・・・・・・


少女たちの心にたまったわだかまりがほぐれて、すうっと早春の空高くのぼっていく。
澄んだ歌声が聞こえてくるような気がします。
読み終えて思う。歌はいいなあ。みんなで歌うって素敵なことだなあ、としみじみと思いました。
合唱、したいなあ。聞きたいなあ。


心にのこったのは、「fa サンダーロード」に出てきた三谷くんの「デコボコ」の話。
繰り返し出てくるテーマ、ともいえるかもしれません。
だれもがみんなデコボコを持っている。簡単に越えたり折り合えたりすることのできないボコのほうがほんとは多いのかもしれない。
そんなときこんなふうに思えたらいい。

>100パーセントのボコではないのかもしれない。ボコのなかにデコが隠れている。ボコがデコを導いてくれる。