ソナチネの木 岸田衿子 文 安野光雅 え 青土社 |
安野光雅さんの絵の上で、岸田衿子さんの詩が踊っている。
絵と詩の調和がとても美しいのです。
安野さんの絵は、赤茶けた、今にも風化しそうな儚げな紙の上に、抑えた色使い、抑えた表情(?)で描かれています。
そしてその上に載った詩は、まるで、絵の一部のように、文字もくにゃくにゃ曲がったり、はみ出したり、逆立ちしたり・・・
もともとまっすぐに並ぶことが大得意の活字たちの遊ぶ姿はなんとなくぎこちなくて可愛いです。
詩なのか、絵なのか、両方なのか・・・両方合わせて一つの場面をつくっているようです。
そして、両方合わせて音楽になっていくようです。
どれも短い詩。ただ四行で終わる詩。
一つ一つの詩たちが、なんとなく繋がっていそうで、繋がっていなかったり、
まるっきり違うことを歌っているのかと思えば、ふと前の詩とリンクしていたり・・・
やがて耳を澄ませば各詩が輪唱のように、または鳥のさえずりのようにいっせいに空から降ってくるような気がしてきました。
昔見た懐かしい風景や、嘗て知っていたような気がする感情や、そんなものが呼び覚まされるような透明な詩句・・・
>草を分けて 続く道と
見えない空の道が
どこかで 出逢いそうな日
モーツァルトの木管がなっている
>まぶしい花火の終わったあとで
あの人は一本の
線香花火を とり出す
忘れものを 想いだすために
>昔の村へ たしかめにゆく
羊雲の下で
ともだちは 待っているか
かやつり草は むすばれているか
気がつけば安野さんの絵を透かして楽譜がうっすらとのぞいているのです。
やっぱり音楽の本なんだ、これ。
楽譜からはみ出して、本からもはみ出して、音楽がこぼれだす。