『かげ』 スージー・リー

 

かげ (講談社の翻訳絵本)

かげ (講談社の翻訳絵本)

 

 ★

ネットでこの絵本の書影をみたとき、横長の絵本だなと思っていたのだけれど、実際、手にとってびっくりした。これ、本の背が上にあるのだ。
つまり、開いてみた時、見開きのページがノドを中心にして上下になるようにできている。
なぜそういうつくりなのかというと……


上から下まで一面真っ暗な見開きで、「パチッ」と音がする。
そーら、電灯がつきました。
本のノドから上のページは、電灯に照らされたリアルなものたちの世界。下のページには、ものたちの影が、黒く逆さまに伸びているのだ。
電灯をつけたのは少女。大きな箱を重ねた上にのぼって、(電灯の)ひもを引いている。
まわりには、脚立、掃除機、ほうきやバケツ、天井から吊り下げられた自転車などなど、にぎやかだ。
下の影は、上にあるものたちの形を忠実になぞっている。


影って不思議。ただの靴が、小動物の形に見えたり、ほうきが植物に見えたりする。
少女が影遊びを始める。開いた両手を重ねたら、影は、羽ばたく鳥の形になった。


不思議なことが起こり始める。
影が、ただの影ではなくなる。本来のすがたをとりもどしたよ、といわんばかりに呼吸し、動きだす。
女の子の手から羽ばたいた鳥は飛び立ち、きつねがはねる、象やワニがあらわれ、ウサギと踊る。
下半分の影の世界は賑やかになってくる。
かわりに、上半分のリアルな世界がなんだか閑散としてきたのではないか。
いつのまにか新しい物語が始まる。主役は王女?魔女?踊り子? 物語の中で、少女はもう、ただの少女ではなくなっている。
上と下と二つに分かれていたページがいつのまにか、一つに混ざり合う。
影の世界が、現実と、とってかわる。


魔法がかかる瞬間と、魔法がとける瞬間(異世界から戻ってくるスイッチ)が、はっきりとしているのもいいなあ、と思う。
この魔法はとけたらそれでおしまいじゃない。いつでも、何度でも、すっと入って行けるのがいい。