リキシャ★ガール

リキシャ★ガール (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)リキシャ★ガール (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)
ミタリ・パーキンス
永瀬比奈 訳
すずき出版
★★★★


バングラディッシュについて知っていることはどんなことですか」と作者はあとがきで問いかけます。
「きっと驚きますよ。バングラディッシュの村に行くと、宝石がいっぱい見つかるのですから。お店では売っていない宝石です。たとえば、エメラルドの水田、黄金のジュート畑、サファイアの空にしずむ、ルビーの夕日。・・・・・」
と、まだまだお金では買えないバングラディシュの豊かな宝物をあげた文章は続きます。


この物語の主人公はバングラディッシュのある村に住む二人姉妹の長女ナイマ。絵を描くことが得意な少女です。
ナイマのおとうさんはリキシャ(自転車でひっぱる人力車のようなもの)にお客さんを乗せる仕事をしていますが、
収入は少なく、家は貧乏です。
でも、ナイマは、まさにお金では買えない宝物をもっています。家族と言う宝物。この家族のお互いを思い合う心が温かいのです。


ナイマのおかあさんは、手首に金のチュリという腕輪を二つはめているのですが、
二つのチュリがふれあって奏でる音をナイマは「家族の音色」と呼びます。
この部分が私は好き。家族の音が象徴するのは平和なやすらぎです。
わたしの子どものころの「家族の音色」といったら、朝目がさめたときに聞こえてくる、母が鰹節をかく音を思い出します。
ナイマの家の音色の澄んだ美しさに比べたらガクッときてしまうけれど、
温かみのある低音は、子どもの私にとって、やっぱり我が家の目覚めの音楽、つつがない一日の始まりの音楽でした。
どこの国のどこの家族にもきっとその家族だけが知っている「家族の音色」があるのかもしれません。
ナイマが、おかあさんの腕輪を大切に思うのは、おかあさんが代々親から譲り受けた大切な宝物である、という以上に、
この腕輪に家族の絆、家庭の平和を感じていたからだと思います。
この腕輪を失うことは、家庭の平和にひびが入るような気がしたのかもしれません。


・・・朝から晩まで働きどおしのおとうさんをナイマは助けてあげたいと思います。
もし、男の子なら、おとうさんといっしょに外で働くこともできますが、
バングラディッシュでは女の子が外で働くということは考えられません。
日本にいたらちょっと想像できない世界ですが・・・


不自由な状況に不平不満を並べ立てるのではなくて、
置かれた状況の中で自分にできることは何か、と一生懸命考えて、行動しようとするナイマの素直でひたむきな姿に打たれます。
(と同時になんだって自由にできる世界に住みながら不満ばかり言っている自分ってなんだろ、とおもったりもしました。)
ナイマの行動は、ときに、はらはらすることもあり、
善意からしたつもりのことが家族の危機につながるところなど胸が痛むのですが・・・。
家族を助けることが、少女にとっての自立にもつながり、自分の長所を生かす道にもつながっていくのがうれしいです。
のびやかに希望が広がっていくラストシーンが清清しい。


子どもが夢を描き、夢に向かって元気に足を踏み出す姿を見るのは気持ちがいいな。
実際には、これから先、課題が多そうですが・・・ナイマに大きなエネルギーをもらったような気がしています。