ぼくのネコにはウサギのしっぽ

ぼくのネコにはウサギのしっぽ (学研の新しい創作)ぼくのネコにはウサギのしっぽ (学研の新しい創作)
朽木祥
学習研究社
★★★★


「ぼくのネコにはウサギのしっぽ」「毒物110番」「おたすけ犬」の三つの物語が収められた本です。
三つとも、子どもが動物(犬猫)と気持ちを通い合わせながら成長する様子を描いています。
動物たちは家族の一員でした。
自分の家族や友だちを思い、家族とけんかしたり張り合ったり、家族を守りたいと願ったり、守ってほしいと甘えたり。
そして、動物たちが仲立ちになることによって、子どもたち一人ひとりの繊細な心に触れられたのでした。


「毒物110番」は、序列あらそいが楽しい。
子犬というわりには、やたら図体がでかくて、態度もでかくて、「ぼく」といきなりライバル関係。
弟とはよく言ったものだ。けんかして張り合って、でもいざとなったら大切な僕の弟。
いい兄弟だね、とほほえんでしまう。


「おたすけ犬」は、子どもたちの関係も犬たちの友情も、ピュアで優しい物語です。
無私の大きな愛情に胸がいっぱいになってしまう。
最後の「散歩」の場面では涙がぽろぽろ。
人間の器の大きさが、年齢に関係ないように、動物・人間の区別もない。


一番心に残るのは、表題作の「ぼくのネコにはウサギのしっぽ」でした。


できのいい姉に対してコンプレックスを持ち、萎縮している少年。この子の気持ちがたまらなくて。
長所とか短所とか、できがいいとかできが悪いとか、そんなふうに比べながら子どもを育てているつもりはないのに。
・・・どの子もどの子もでこぼこがあるし、それがほほえましくもあるのに。
物語で「カケガエガナイ」という言葉が使われていましたが、ほんとにそう。
自分のへこんだ部分を、ほかの人の飛び出た部分と比べるなんて、そんなことしてほしくない。
でも。
子どもにそうさせる原因を親は知らないあいだに作っているんだろうか。
にわかに子どもに対してすまないなような思いでいっぱいになってしまいました。
少年のもとにやってきた、みっともなくて愛嬌もないネコのタマ。ちっともなつかないタマ。少年の気持ちにつながります。
このタマの気持ちをわかろうとすること、タマに安心していいんだよ、とそっと伝えていくことで、
少年もまた自分を見つめ直していくこと、そして、親の気持ちにも気がつく、そういう余裕が生まれてくる。
派手な物語ではありません。それだけに物語がじんわりと沁みて、心にあたたかな思いが広がってくるのを感じます。
ああ、子どもたち。・・・言葉にするのは照れくさいけれど・・・伝わっているかな。
ここでこっそり言うね。あんたたちひとりひとりがそのまんま「カケガエガナイ」んだよ。