クリスマスの猫

クリスマスの猫クリスマスの猫
ロバート・ウェストール
ジョン・ロレンス 絵
坂崎麻子 訳
徳間書店
★★★★


主人公キャロラインは、ブルジョア階級に属する少女。
クリスマス休暇を牧師である伯父のところで過ごすためにやってきている。そこで出会ったのが、労働者の子ボビーで、彼はブルジョアを軽蔑している。
子どもでも無視することのできない、イギリスの階級格差が、はっきりと描き出されている。
キャロラインの伯父さんの牧師館は、てっぺんにぎざぎざのガラスを埋め込んだ黒れんがのすごく高い塀に囲まれているが、この塀は、ボビーの世界とキャロラインの世界とを隔てる壁のように感じた。
塀の中と外。
キャロラインがいる中のほうが暗く寒々としていて、ボビーが暮らす外のほうが明るくほかほかなのが皮肉な話。


キャロラインもボビーも相手が自分とは違うことも承知しているが、二人はあっというまに仲良くなる。
二人とも、見かけよりもずっと心がやわらかいのだ。共通の敵がいたし、共通の目的を持ったからでもある。
敵は伯父さんの家政婦のミセス・ブリンドリー。
労働者たちをみくだし、誰に対しても意地悪で、ずるくて欲が深い。
キャロラインもボビーも彼女が大嫌いなのだ。
そして、共通の目的は、野良猫。もうすぐ生まれる猫の赤ちゃんを守ること。
ミセス・ブリンドリーにみつかったら水に沈めて殺されてしまうから。
これはキャロラインの願いだったが、ボビーも頼まれて協力することになるのだ。
二人の役割分担(?)も楽しくわくわくする。
自由に動けないキャロラインと、どこにでも自由自在に動き回るボビー。
キャロラインでなければ入れない場所とボビーでなければ入れない場所。
強力なミセス・ブリンドリーを二人掛かりで出し抜く。姿の見える敵と見えない敵になって。
二人の立場の違いを浮き彫りにしながら、それを逆手にとってすてきなことをやってくれる子どもたちに拍手したい。


結末はとびきりすてきなクリスマス。暖かい部屋で、大好きな人たちに囲まれて食べる、特別のごちそうのような。
クリスマスには奇跡が起こるのだ。
ほんとに奇跡だったかな。人の気持ちから気持ちへ、手から手へ渡されて、みんなで起こした奇跡だった。


元気なキャロラインはそのままに年をとり、元気なおばあちゃんになる。
この物語は、おばちゃんが孫娘に語る、おばあちゃんのまだ少女だった頃の物語なのだ。
「ねえ、あたしの孫娘。」という呼びかけから語られるのがこの物語。
それから、そうだ、この本のおかげで、松ぼっくりがとってもすばらしいものに思えてきたのだ。