楽しいスケート遠足

楽しいスケート遠足 (世界傑作童話シリーズ)

楽しいスケート遠足 (世界傑作童話シリーズ)


表紙を見た瞬間に「わ、すてき」と思いました。
ページをぱらぱらすれば、挿絵がふんだん。
ことに色刷りの見開きいっぱいの美しいオランダの冬景色が何葉も目にとびこんできました。
クラシックな美しい本。1934年にアメリカで出版された本だそうです。
作者の初めての作品で、「オランダでの子ども時代の郷愁、とくに運河でスケートをした体験」をもとに書かれたそうです。


本全体から楽しい一日があふれ出し、輝きだしているような気がします。
子どものときの特別な日。それは何日も前からわくわくして、あれこれ想像しながら少しずつ準備して、
たくさん家族や友だちと話し、そうして、当日を迎えるのです。
そして、一日を無我夢中で過ごし、ただただ疲れ果ててころんと眠る心地よさ。
オランダの小さな村エルスト村の小学校の男の先生と16人の子どもたちのスケート遠足は、そんな一日でした。


運河をスケートして下っていく話、というとわたしは「トムは真夜中の庭で」を思い出すします。
ハティとトムが運河をスケートでひたすらくだっていく場面です。村を越え、町を越えて。
こういう冬の楽しみ、スケートの楽しみは、日本にはありえません。何十キロ何百キロと川が凍るなんてこと、ありえません。
だから、「トム・・・」のこのスケートの場面はとても印象に残っています。羨望の気持ちとともに。
オランダもそうだったんですね。オランダは運河の国ですものね。だからスケートもさかんなのですね。
絵にもずいぶん助けられました。オランダの運河の楽しそうな冬景色に魅了されます。
たくさんの人たちがスケートをしている。
運河の上にはあちこちにテントがたち、テーブルといすがおかれ、そこでココアやポッフェルチェという焼き菓子を売っているのです。


子どもたちは先生に先導されて思い思いに、
スケートがあまり得意でない子どもたちは先生が持った長いポールにつかまってどんどん滑っていきます。
途中、大きな湖に出るとみんなで横並びに並んで手をつないで滑ったり。
そして、子どもたちがめったに行かない(ほとんどの子どもたちが初めて見る)大きな町につくのです。
町の中を探検したり、町の学校の小学生たちと雪合戦をしたり。
そして、星がまたたきはじめるころに疲れ果てて家路につきます。
途中、村にむかう馬ぞりに乗せてもらったり引っぱってもらったりして、口をきくのも嫌なくらい疲れ果て充実しきって。
そのあいだにびっくりするような事件が起こったり、どきどきするような出来事があったりするのですが、
そんなこんなも含めて、楽しい一日の輝きに、幸福感でいっぱいになってしまう。


こんな思いですごした一日がわたしにもあったあった。子どものときの特別な一日
それは特別華やぐイベントである必要はないのだろうと思います。
その一日の充実、わくわく。思い出すとしみじみと喜びが湧いてくる一日。
なにもかもそのままそっと箱に入れてリボンをかけてしまっておいて、
ときどき取り出して匂いをかいで、なぜてみて、
にこっとしたくなるようなあの日の思い出。
16人みんながそんなふうに思っているに違いない。
大人になって思い出して、みんな揃って飛び切りの笑顔になる一日だったにちがいない。
星のまたたき、疲れ果てて無口になった子どもたち、
そして、村のあかり、迎える親たちがかざすカンテラの灯、湯気のたつ食事・・・ああ。