三つ穴山へ、秘密の探検

三つ穴山へ、秘密の探検三つ穴山へ、秘密の探検
ペール・オーロフ・エンクイスト
菱木 晃子 訳
あすなろ書房
★★★★


ある晩、6歳のミーナは、緑色のワニにおしりをかまれて目が覚めました。
その恐ろしい思いをパパにわかってほしかったのに、パパはまともに扱ってくれないばかりか、
「そんなことばかりいってるとおじいちゃんみたいになっちゃうぞ」なんて言うのです。
子どもたちはおじいちゃんが大好きです。
だって、おじいちゃんは、子どもの話の腰を折ったりしないし、いつもメチャクチャいいアイディアを出してくれるのです。
ママたちは最低最悪のアイディアだというけれど。
・・・といわれれば読者としては、もう気になって気になってしょうがないおじいちゃん。
どんなおじいちゃんなんだろう。
はいはい、おまたせ、と言わんばかり、さっそくミーナはおじいちゃんに相談します。
おじいちゃんは「ワニ」の話を笑いません。それは「緊急事態だ」なんていうんです。そして、すぐに対策を考えてくれました。
そのひとつが三つ穴山への探検でした。千メートル以上もある高い山に三日かけて登る。
「より大きなことを克服すればワニなんて、どうってことなくなるさ」と。
かくして孫たち4人とおじいちゃんは別荘にとまって、そこから三つ穴山をめざすことにしたのです。
うん、やっぱりおじいちゃんは頼りになる。・・・ほんとはおじいちゃんは、いつか三つ穴山へ登ってみたくて仕方がなかったのです。


子どもみたいな人だな、このおじいちゃんは。
無茶だろう。8歳から4歳までの四人の子どもに、この探検は荷が重過ぎるでしょ。大体計画がなってないじゃない。
一歩間違えれば命がないでしょ。熊もオオカミも密猟者もいる山なんです。実際大変なことになってしまうし・・・
親たちは、かんかんになります。
だけど、子どもたちはおじいちゃんが好き。
子どもたちがおじいちゃんを好きな理由をひとつひとつ数えてみれば、
親としてのわたしは下を向いて、どんどん小さく小さくなっていくのです。
おじいちゃんは決して子どもの話をばかにしない。話の腰を折らない、だけではなく、
真剣に子どもが話すとおりの言葉でそのまま理解してくれます。
夜中にワニにかまれたというのなら、まちがいなくワニにかまれたのです。
マツの木に自転車で登れるというなら、登れるのです。
そして、言葉そのままにまず受け止めて、
ゆっくりとそれはどうしてそうなったのか、どうやったらそういうことができるのか、
子どもたちに子どもたちの言葉で説明することを望みます。
そして助けが必要だというなら、手を貸しましょう。手を貸す方法を考えましょう。
あくまでも当事者である子どもの目線、子どもの価値観に合わせて。
それが常識的にみたら最低最悪のアイディアにみえたとしても、
自分の傍らに真剣によりそってくれたことを子どもはかけがえなく感じるのではないでしょうか。


それにしても、北欧の森。滴る緑の深い森。そして野生動物たちとの出会い。ため息が出るほど羨ましい環境です。
オオカミの子どもとのふれあいは思わず笑みがこぼれてしまいました。
親オオカミやクマとの出会いには互いに越えてはいけない一線を守ったもの同志に分かり合えるような言葉を越えた交流がありました。


そして、探検がおわったとき、ワニにかまれたことを覚えているか、と聞かれたミーナは
「あたし、夢を見ただけよ。まだ、あたしが小さかったとき。ずっと前にね」と言います。
実際数週間前のできごとをこんなふうに話すミーナは、
おじいちゃんのもくろみどおり(?)まちがいなく「より大きなことを克服する」ことによって、成長したのでした。