アラスカを追いかけて

アラスカを追いかけてアラスカを追いかけて
ジョン・グリーン
伊達淳 訳
白水社
★★★★★


訳者あとがきの書き出しが「それにしてもピュアな物語だ」で始まっているのに、頷いています。
本当にピュアなのです。
青春期の透き通るようなまっすぐな感性に感動しないではいられません。
人生の始まりのときに、こんな時代があった、まわりから眉ひそめられたとしても。
苦々しさや、甘酸っぱさや、痛みなどとともに、やっぱり甘美な思い出として振り返れる、そんな物語だった、と思います。
作者29歳のデビュー作だそうです。
単純に、この本全体に漂う雰囲気がすっごく好きです。


舞台はアラバマ州の寄宿学校です。
主人公とそのまわりの若者たち、一見滅茶苦茶ですが、彼らは彼らなりに誠実であり、みんなそれを認め合っている。
不真面目なことをしていても、自分の人生に対して、そして、友人たちに対して、大体のところでまじめなのだなあと思います。


一番最初のページには、文章の頭に章題がわり(?)に、太字で「136日前」と書いてある。
何の日の136日前なんだろう、といぶかる。
ページが進むごとに、カウントダウンするように、日にちの数字は減っていく。
これがゼロになったら何がおこるのだろうか。(まさか地球滅亡の日まであと何日、ではないだろうに。笑)
けれども、数字がどんどん減り、ひとけたになってくると、緊張感でいっぱいになってくる。
何かが起ころうとしている。
そして、ゼロ。頭が真っ白になる。生徒たちとともに。
どん底だった、そこは。
そこから、地を這うように、「〇日後」、「〇日後」と数字が増えていきます。ほんとに地を這うように。

>「一体どうやってこのラビリンスから抜け出せばいいんだ」
生涯をラテンアメリカの解放と統一に捧げたシモン・ボリバルの言葉だそうです。
私たちは、たぶん、ふだん忘れているだけで、先の見えないラビリンスの中にいるのかもしれません。
ある日、目の前に、突然道が閉ざされているのを見つけたとき、ラビリンスの存在に気がつくのかもしれません。
正しい道をみつけるためにあがきながら、ふと横を見たとき、
やっぱり、自分と同じように歯軋りしながらラビリンスの中で闘っている仲間がいたら、
少しだけ勇敢に立ち向かうことができるかもしれない。
別の出口に向かっているとしても、一時ここで出会った仲間。
ラビリンスを抜けても、やっぱり別のラビリンスが待っているのかもしれないけれど、
あるいは抜けたつもりで抜けたわけではないのかもしれないけれど、
ひとつの難所をくぐりぬけるたびに確実に足跡を残していく。
「偉大なる『もしかして』を探して」―フランソワ・ラブレーの言葉を胸に、この学校に転校してきた主人公は、
最後に何をみつけたのでしょうか。
確実に成長した彼の最後のことばがとても印象的です。
とても清清しい。