スカラブ号の夏休み

スカラブ号の夏休み (アーサー・ランサム全集 (11))スカラブ号の夏休み (アーサー・ランサム全集 (11))
アーサー・ランサム
新宮輝夫 訳
岩波書店
★★★★★


(再読)
またここに戻ってきました。D姉弟は、ベックフッドに滞在して夏を過ごすためにやってきました。
湖の上からリオ湾のむこうのハイトップスの峰々を眺めながら、
「ここにいられるだけでもすてきだわ」というドロシアの言葉に、ああ、夏休みが始まるのだ、と喜びが湧き上がってきました。
夏休みの始まりって、それだけでわくわくしないではいられません。
特にこの夏は、D姉弟は、自分たちだけの初めての帆船スカラブ号をついに手に入れる夏でもあり、
ディックはティモシーを手伝って鉱物を化学的(?)に仕分けしたり、蛾を採集したりの、
楽しみがたっぷり待っているはずなのです。


ところが・・・そう簡単にはいかないのでした。
日傘です・・・日傘があるのです。
表紙見返しのおなじみの地図。右上には、ぶっちがいのアマゾン号とスカラブ号の旗。
そのふたつのぶっちがい旗に、日傘がさしかけてあるのです。大おばさんの日がさ、と書いてある・・・
はい、そうなのです。やってきたのです。大おばさんが。呼ばれもしないのに。
おりしもナンシーたちのおかあさんもジムおじさんも旅行中というそのときに。
おかあさんが、大おばさんに黙って、ナンシーたちを置いて旅行に行ってしまったことだけでも大おばさんは気に入らないのに、
この上、その留守宅にD姉弟が招待されていた、となったら、
あとあとおかあさんがどんなに困った立場に追い込まれることか。
子どもたちの咄嗟の判断により、この夏の予定は大いに変わってきました。
ナンシーとペギイはベックフッドの殉教者となり、D姉弟は、森に隠れたピクト人となります。


それにしてもD姉弟っていいな。
そして、なんて対照的な姉弟なんでしょう。想像を糧に生きているドロシアとすごく実際的なディックと。
うさぎをまるまる一羽、料理をしようなんて、わたしなんてはなから思わないけれど・・・やっちゃうんだね。この二人は。
ピクト人になりきったドロシアと、実務的に処理しようとするディックだから。
この二人の両極端な性格コンビって、もしや最強?と思わせてくれるエピソードがいっぱいでした。


何も知らない大おばさんを中心に据えて、陰で立ち回る子どもたちの奮闘が楽しいです。
最後の大捜索は最高。大いに笑わせていただきました。
実際、親戚にもご近所にもこんな大おばさんがいなくて幸せですが、しかしたいしたご婦人ではありました。
そして、ひやーりとして、このすったもんだの事件をどうやってかたづけるんだろう、と思っていたら、
あらま、なんとなんとすてきな結末。
さんざん振り回してくれましたね。この読者をも。
これは、ジョリス中佐の「出てきたとき、ばんざいをしてやろう」に一枚かませていただきませんと。ぜひとも。
それにしても、何度読んでも笑いがこみ上げてくるなあ、このフレーズ。
  >「いいかい。たった一つ、ぜったいにさけなくちゃいけないのは、あの老婦人に出くわすことだよ」
このせりふのすぐあとの章の章題にも噴出してしまいます・・・