ラストリゾート

ラストリゾートラストリゾート
ロベルト・インノチェンティ 絵
J.パトリック・ルイス 文
青山南 訳
BL出版
★★★★


ドコダカダレニモワカラナイトコロの海辺のホテルに三々五々訪れるお客さんは、
みんな何かに迷い、何かをさがして、ここに集まってくる。
そして、彼らは、どこかで会ったことがあるような懐かしい人たちでした。
ハックルベリイ、人魚姫、メグレ警視、サン・テグジュべり、エミリ・ディキンソン、ドン・キホーテとサンチョ・パンサ・・・
彼らは何をさがしているのか。
そして、失った想像力をさがす旅に出た画家が、このホテルにたどり着きます。
画家は想像力を掴まえることができるのでしょうか。


みんな何かをさがしている。
だけど、ここへ来て、特別に変わったことが起こるわけでもない。
何か特別な体験をするわけでもない。
ただ静かにゆったりと休暇を過ごす・・・そのあいだにそれぞれに、それぞれの理由で何かが起こります。
別々の何かを探している人間同士がひと時すれ違うことが、何かをおこさせるのでしょうか。
それを見ているだけで、何かがかわっていくのでしょうか。


読む人の感性によってどのようにも読み取れる絵本、とのことですが・・・


ここで起こることは、何もかも、「お話」の続きの「お話」なのだ、と思います。
「こころが思い描くものを現実のものにする力」を得るためにここへ来たのだ、という画家が見失っていたものは
「お話」だったのかもしれません。


最後に、愛車に乗って、このホテルを旅立った画家は、道連れを拾います。
この道連れも目に見えないものを象徴している様な気がします。
この道連れが画家のとなりにすわっていることに幸福な思いが満ちてきます。
想像力を形にするのは、それぞれが持っているお話かもしれません。
そして、お話は次々に新しい冒険を求めて変化していくのかもしれません。
そして、車の向かう先は家ではありません。
今度はどんな風景が待っているかわからない未知の世界に続く道を走ります。


人々は、何かを求めてこのホテルに滞在します。「何か」はそれぞれ、みんなちがうはずです。
この絵本を開くと同時に、わたしもまた、このホテルにしばらくのあいだ滞在したのでした。
そして、わたしもまた目に見えない道連れといっしょに旅をしている途上なのかもしれない、と思いました。
日々を暮らすことは新しい冒険といえるかもしれない、ということを見出した思いです。
だから、今は、わたしもこのホテルを立ち去るときなのです。

>「ついていってもいい?ぼくは、クレメンズとかトウェインとかいう名前の小説家に会ってみたいんだ。会えたら、ぼくにもっと新しい冒険をくれって、言いたいんだ」