黒いハンカチ

黒いハンカチ (創元推理文庫)黒いハンカチ
小沼丹
創元推理文庫
★★★★


ミステリです。
探偵役はニシアズマというふざけた名前の女学校の英語教師。
小柄でかわいらしいこの女性は、まったく似合わない赤縁の度無しロイド眼鏡をかけて、名探偵ぶりを披露します。
ニシアズマ先生が関わった事件は全部で12。中には殺人事件も何件かありますが、ほとんどは日常の謎
そして、この本が初めて世に出たのが1958年・・・もう50年も昔。
そのせいか、どこかのんびりとした牧歌的な雰囲気があるのです。のどかで、どこか上品なイメージです。
物語はさっぱりとしていて、事件の背後にありそうな事情(ミステリですもの、たいていどろどろした動機があったりしそうなのですが)
この本では、わりとあっさりとそういう動機を切り捨てて、詮索しないのです。
それが潔くて上品な気がするのです。

>では何故、〇〇は××したのか?それは開けて見ない贈物の内容と同様判らぬことである。ニシ・アズマは〇〇に会うかもしれない。しかし、その后で彼女が〇〇の話をして呉れるかどうかは判らない。
と、こんな感じなんです。これは気持ちがいいです。(それまで、何故かな何故かなと思っていた自分をひそかに恥じ入ったりして)


漢字を多用した昭和初〜中期らしい文章もいいです。いまどきではない女性たちの丁寧な言葉遣いもいいです。
それから

>広場には二、三台のトラックと一台の荷馬車が停まっていて、荷馬車に繋がれた馬は頻りにその尻尾で腹にたかる蠅を追っ払っていた。
などという田舎駅の雰囲気もいいです。
そして、文章はいかにも生真面目な感じなのに、飄々としたユーモアが混ざっているのがいいです。