なつかしく謎めいて

なつかしく謎めいて (Modern & classic)なつかしく謎めいて (Modern & classic)
アーシュラ・K・ル=グウィン
谷垣暁美 訳
河出書房新社
★★★

plane(飛行機)の乗り継ぎ時間には、
planeとplaneの間にいるわけだから、コツさえ覚えれば簡単にplane(次元)とplane(次元)の瞬間移動も可能である、
という理屈がこの作品の出発点になっているそうですが、
さて、わたしにはこの理屈(というか言葉遊び)の意味がどうにもこんがらかっちゃって、さっぱり理解できないのです。
で、ここは飛ばします(笑)
とにかく、そういうわけで(笑)、次元間移動法の発見によって、様々な人類の住む次元に旅行できるようになったのです。
ここでまた「次元って何?」と言い出すと果てしなくわからなくなるので、ここもスルー。
異世界への旅行がいとも簡単にできるようになった、と理解しています。
その別次元(異世界)の住人たちの生態、文化を15、連作短編形式で次々に紹介しています。


なんでもありなんです。
鳥人間の世界、不眠の実験をしている人々の島、黙して語らずの孤高の文化を持った氏族。
遺伝子改変による植物や動物と人(!)の交配の実験の後の人々の世界・・・
ナンセンスな世界の描写がこれでもかってくらいに続くのです。
ナンセンスなのですが、どれももともとは人間のいる世界。
わたしたちのこの世界のバランスがどういう加減かで狂ったらこのわけわからない世界は現実になるかもしれない、と思うと怖い。
それでいて、タイトル「なつかしく謎めいて」ではないけれど、
自分たちの運命に忠実に、ひたすらに生きていく人々の描写に、せつないような気持ちになってしまうのです。


好きなのは「渡りをする人々」
人生を三期(一歳、二歳、三歳)に分けて、
人生の節目(季節)ごとに三回の「渡り」を繰り返す人々の静かな生き方が、まるで静かな詩のよう。
人生の目標ははっきりしているし、
終わりのときも辛抱強く受け入れようという悟りのような境地もまた、静かな強さに思えて、しみじみといいなあ、と思うのです。
この小さな物語には、
「マッケンジーブリッジのミサゴに捧げる。彼らの生態がこの物語を生み出すヒントになった」という献辞が添えられています。


エリック・ベドウズによる挿絵の不気味で不思議で、
暖かいのだか嗤っているのだかわからない、奇妙な雰囲気が、この物語にぴったり合っていました。