オックスフォード物語―マリアの夏の日

オックスフォード物語―マリアの夏の日オックスフォード物語―マリアの夏の日
ジリアン・エイブリー
神宮輝夫 訳
偕成社
★★★


「少女は、学校なんぞへいれるものではないな。役にも立たない教授法、ばかげた科目、それからあのかんだかい声――まったくぞっとする」
と、オックスフォード大学カンタベリ・カレッジの学寮長(ウォーデン)は姪のマリアに言いました。
19世紀末。
よき妻、よき母になること以外に少女たちの教育の価値を見出すことのできない私立学校から逃げ出したマリアの夢は、
オックスフォード大学の教授になることでした。
啓かれた心を持ったこの大おじにひきとられたことは、マリアにとっては幸せなことだったと思います。
大おじの家―学寮公舎(ロジングズ)に身を寄せ、
隣に住むスミス教授の三人の息子たち(トマス、ジョシュア、ジェイムズ)とともに
家庭教師のコプルトン先生について教育を受けることになるマリアです。
「19世紀末の大学街を子どもたちがかけまわるとっておきの児童書!」なんて謳い文句を聞いては読まないわけにはいきません。
これだけでおもしろくないはずないもの。


マリアは、
学寮公舎の居間に掛けられている絵―エルサレム屋敷(このあたりを治めていた貴族フィッツザカリー家の邸宅)の見取り図を見るのが好きでした。
やがて家庭教師にエルサレム屋敷見学に連れて行ってもらい、
そこで見たたくさんの肖像画のなかの、名もわからない一人の少年の絵に惹かれます。この少年は一体誰なのでしょう。
フィッツザカリ一族のどこに位置する少年なのだろう、と考えます。
やがて、この絵のことを忘れかけていたころ、ある事件をきっかけに再び、念頭にのぼってきます。
あちこちに残る切れ切れの手がかり。そして、この少年について調べ始めるのです。
ここからがとってもおもしろい。謎ときです。
歴史をひもとけば、あちこちに小さなミステリが隠れていることに気がつきます。
そして人間たちのドラマが浮き彫りになっていきます。
遠い時代に生きた人が身近な親しい友になっていくようです。


マリアはひとつの歴史ミステリを追うことになります。
それにしても、図書館で一冊の本を閲覧することも、すぐ近くにある実地を訪問することも、
この時代の女子にはどんなに大変な、途方もない冒険であることか。
女子が学問することに対する一般人の冷ややかな目。マリアに心から同情してしまいます。


マリアといっしょに学ぶ男の子たち三人の個性が豊かで楽しいのですが、あの奇妙な(実にありがた迷惑な)コプルトン先生はどうしたもんだか。
あまりにアクが強すぎて、奇矯な行動ばかりが目立ってしまい、子どもたちより、わたしのほうが引いてしまいました。
そのため、ますますよくわからない人になってしまった。
そのうえ、主人公マリアがまた性格つかめないのですよね。
トマスに「内気な女の子に見えるけれど、きみってかなり思いきったことをするんだな」と言われれば、そうなのかな、と思うのですが・・・
手が届きそうで届かないような(笑)歯がゆいところがたくさんあるのです。
まだまだとても魅力的な主人公、というわけにはいかないのです。
これは続編(未邦訳)がすでに3冊も出ているそうなので、続巻での彼女の成長、掘り下げ(?)を楽しみにしたいと思います。
そのほかでも、続巻にもちこされた(のですよね)のが、大おじさんとの関係。
大おじさんがマリアの成長を楽しみにしているのはわかるのですが、なかなかマリアには伝わりません。
そしてマリアがほんとうはこのおじさんのことをどう思っているのかいまひとつはっきりしないのです。
学寮公舎の家政婦やメイドたちとの関係も今のところ冷たいものですし、
いつもおどおどしている新人メイドのリジーとはこれからきっと何か特別な関係になっていくのではないかな、と期待をしています。
次巻以降、いつ読めるのかな〜。楽しみにしています。