ドリーム・ギバー―夢紡ぐ精霊たち

ドリーム・ギバー―夢紡ぐ精霊たち (ハートウォームブックス)ドリーム・ギバー―夢紡ぐ精霊たち
ロイス・ローリー
西川美樹 訳
金の星社
★★★★


人間たちが眠っている間に、その傍らにそっとやってくるドリーム・ギバー。
彼らは、人間たちの持ち物、衣類、食器、家具などにそっと手を触れて、そこに篭る持ち主の思い出のかけらを集めます。
そして、良い思い出を撚り合わせて、夢、として、人間に贈ります。


訳者は、あとがきの中で、作者の言葉を引用します。
「イマジネーションや記憶には心を癒す力がある、というのがこの物語のテーマです・・・」
とても大きく共感できるのです。
つらいとき、苦しいとき、幸福な思い出、美しいイメージが、どんなに自分を助けてくれることか、励ましてくれることか。
特に、愛されて大切にされた記憶が。
そして、親が子どもに贈る一番大きな贈り物でもあるはずです。
子ども時代にたくさんの幸福な瞬間をもってほしい、たくさんのことに感動してほしい。
そして、その子のことを大切な子と思ってくれた人のことを覚えていてほしい・・・


最後は、計らずも泣いてしまいました。
こんなにシンプルで、小さな子どもたちに向けて書かれた物語。
この中にたくさんの幸福、愛のかけらが詰まっています。
夢はひとりでみるものだけれど、幸福な夢は、ひとりだけの思い出では作られていません。
誰かの幸せな顔と顔が重なって、より美しい夢が、より強固な夢が作られていくように思いました。
わたしたちは独りでは生きてはいけないのでした。
そして、そういう夢はわたしたちの心を癒し、勇気を与えてくれます。悪夢に打ち勝つ力も。


ドリーム・ギバーの見習い(?)の小さなリトレストがまたかわいらしくて愛おしいのです。
しゃべって笑って、笑って歌って、歌っておどって、ときどき何かを考え込んでいる様子でちゅくちゅく指を吸っていた。
そしてそのうちまあるくなって眠ってしまう。
誰かを思い出すな(笑)


おばあさんが少年にお話してあげるのを見ていたリトレストが年配のドリームギバー、エルダリーに尋ねます。
「でも、お話っていったいなあに?」
「そうだな、ありとあらゆるものがお話といえるのだ。たとえば、あのご婦人の家のなかで、おまえがさわったものをあげてごらん」
たとえば、セーターについたボタン。
そのボタンに篭るおばあさんのたくさんの思い出や感情を数え上げるリトレストに、エルダリーは言います。
「それが、あのボタンのお話さ。あの小さなボタンがこれまで経験してきた、すべてのことがらがね。それらがお話をつくるのさ。どんなものにも、それぞれにお話があるんだよ」
・・・おばあさんが、少年に、少年のお話をしてあげたとき、少年が安らかな眠りに入っていけたこと、
それはドリーム・ギバーの夢送りに、よく似ていました。お話と夢は、とてもよく似ているように思いました。
ただ、夢は、わたしたちが眠っている間、知らないうちにやってくる。
お話は、わたしたちが目覚めているときに、じかにそのぬくもりにさわっていられる。何度でも繰り返して触れる。


ドリーム・ギバーも、ドリーム・ギバーたちが集まる「集いの地」もまた、「お話のなか。夜の闇のなか。夢のなか」にあるのだというなら、
わたしたちもまた、お話を語りたいものです。自分に向かって、自分の愛しい人たちに向かって。