ボストン夫人のパッチワーク

ボストン夫人のパッチワークボストン夫人のパッチワーク
(ルーシー・M・ボストン)
ダイアナ・ボストン
林望 訳
平凡社
★★★★


グリーンノウシリーズのL.M.ボストンさんはパッチワークキルトの作家としても有名な方だったそうです。
ここでは、グリーンノウの舞台にもなったボストンさんの住まい、
へミングフォードグレイ村のマナハウスに残されたパッチワーク作品23点が紹介されています。


作品そのものもすばらしいのですが、
これらすべてが日常生活の中でカーテンや大切な人のベッドカバーとなり、
日に焼けたり、ほつれたりしたところを新しい布や糸で補修しながら、長い間大切に使い込まれた品々だということ、
その補修の仕方も手が込んでいて、新しい作品や隠されたパターンがはめ込まれたりして、年々複雑な図案になっていったことなど、
憧れいっぱい、手仕事病も疼き始めました。


そういえば、グリーンノウシリーズのどこかで、オールドノウ夫人が、夕飯のあと、パッチワークを補修しながら、
何十年、何百年前にここで暮らした人の思い出をトーリーに語り、
「これは〇〇のシャツよ、これは××のスカートだったの、エプロンだったの」
と小さな布の端切れを丁寧に慈しむように縫っていた姿(すみません、細部、間違っているかも、うろ覚え)を思い出すのです。
オールドノウ夫人はボストン夫人そのもののようで・・・。


そう思いながら眺めていると、パッチワークの向こう側に広がる屋敷の風景にどうしても目がいってしまいます。
たとえば、
「ハイ・マジック・パッチワーク」と題されたベッドカバー(この大胆にして神秘的な模様!)が掛けられたベッドのあるマナ・ハウスの主寝室。
ここがオールドノウ夫人のベッドルームだったんだな、とか、
六角形の花畑図案のカーテンが掛かった勝手口。
あいた扉の向こうに小さく見える広大な庭の一部。
ああ、あの小道の向こうに「グリーンノウのお客様」の姿が見える様な気がします。
勝手口のカーテンと同じ図案で指されたソファカバーのかかった長いすの後ろには、
マナハウス特有のものすごく厚い壁をくりぬいた小さなアーチ型の窓。
そのままテーブルになりそうなくらい厚みのある壁は、飾りだなのように使われ、いくつもの燭台がおかれていました。
どの部屋もどの部屋も想像どおりのグリーンノウ屋敷そのものでした。
そして、表紙の写真は、トーリーの寝室でしょうか。あの鳥かごも木馬もちゃんとそろっているもの。
ベッドカバーは、お孫さんのためにボストンさんが大切にさした「ケイトの星
」・・・だからやはり、この部屋は子ども部屋だったんですね。
窓辺に立ったり、腰掛けたりしているトーリーやピンたちの話し声が聞こえてきそう。
グリーンノウ屋敷は、新しい小さな物語を作者の知らないところでつむぎ続けているような気がします。
古い家が、ボストン夫人のような人の手に掛かって、息をふき返し、目覚め、
日々この家を愛する人の姿をずっと慈しんで見守りつづけ、その思い出を決してなくさずにいるのだ、ということが、
写真で確認できたような気がします。
今では、ボストン夫人もまた、この家の思い出のひとつなのでしょう。