銀のシギ

銀のシギ (ファージョン作品集 (6))銀のシギ (ファージョン作品集 (6))
エリナー・ファージョン
石井桃子 訳
岩波書店
★★★★


イギリスの昔話「トム・ティット・トット」をふくらました物語です。
もともと戯曲として書かれたそうで、ふんふんなるほど、と思わせるチャーミングで皮肉な言葉遊びのような楽しい会話が続き、ちょっと古いお芝居を見ているような楽しさ。

ドルとポルという二人の正反対の姉妹。
美しくおっとりとしたドルは夢見がち(それも食べ物のことばかり?)の怠け者。
容姿そこそこの妹ポルは、賢い知りたがり屋の行動派。
この極端に性格が逆の姉妹は、もとのお話の本来一人しか出てこない女性の姿を半分に分けたもの。実際、ドルとポルは二人で一人なんでしょうね。
くっきりと二つに分けられるほどに一人の性格の中にこんな人格が眠っていたなんて、驚きます。そうそう、昨日読了したハートネットの「サレンダー」のあとがこれですもの。
しかもドルの夫になる王さまは二重人格、との設定で、ダメ押ししてくれるなんて、ご丁寧な皮肉。
ろくでもない深読みすれば、魔の森にひそむトム・ティット・トットやその手下たちと、月男・銀のシギとが、もしや合体したら何になるか、なんて考えてしまう。

銀のシギと月男は、元の昔話には出てきません。それがここに現れるということ。
これらは、脇役ですが、ものすごく重大な責務を負って物語に現れます。そして、それだけではなく、これらの存在が、ただ楽しいコメディタッチの物語に独特の深みと美しさを添えています。

後半のポルの冒険から物語はおもしろくなります。
ポルの勇気、行動力には拍手喝采ですが、のほほんとしたドルが母になったとき、今まで感じなかった輝きを放ち始めたことも魅力でした。

それにしても、こんな二重人格男を夫にしたいかな、ほんとに。どこの王さまだって、ごめんだろうに。
それから、日和見のその場しのぎのお約束もしちゃだめでしょ。すぐ首がまわらなくなるのがわからないかな。