ツバメ号の伝書バト

ツバメ号の伝書バト (アーサー・ランサム全集 (6))ツバメ号の伝書バト (アーサー・ランサム全集 (6))
アーサー・ランサム
神宮輝夫 訳
★★★★★


S.A.D.M.C.(ツバメ・アマゾン・Dきょうだい鉱山会社)始めました。
物語は、ロジャとティティの乗った汽車がウィンダミアに到着するところから始まります。夏休みが汽車といっしょにやってくるようで、出だしからわくわくしてしまいます。

しかし、描かれるのは、ツバメ号のない夏休み前半。
アマゾン川をさかのぼった奥地ハイトップスで金鉱堀を始めた8人でしたが、思わぬ妨害にあったり、怪しい鉱山師を見張ったりしながら、なかなか物語はうまい具合に進んでくれません。・・・が、あとから思えば、そういうことも含めてなんと思い出深い夏になったことか、と思うのですが。
そう、8人みんなの持ち味、個性が、ますます冴え渡り、それぞれがそれぞれらしく輝かしい働きをして、8人のチームワークを押し上げていました。
リーダーシップをとるのは大胆で物事を大きく見られるナンシー。そこに実際的なジョンの判断が加わります。
ディックが「教授」となって、鉱山会社の頭脳になります。
ロジャのやんちゃぶりが、どん詰まりのどうどうめぐりを突き破ります。
ティティの感受性はほとんど彼女の才能なのだ、ということにいまさらながらに納得します。
そして、スーザンのスーザンらしさには笑ってしまいました。「そうそうスーザンが誕生日のプレゼントをひき肉器にしちゃったの知ってる? ペミカンを改良するためよ」とぺギイに言わせたスーザンは、13歳?もう14歳になったかな。どちらにしても、誕生日にひき肉器をねだるには、あまりに若い気がするし、現実的すぎるような気もするのですが、スーザンらしいです。星までも飛んでいってしまいそうな破天荒グループなのだから、スーザンの存在は貴重なのです。

物語がぽんぽん動き出すには、ページ数、半分くらいすぎるまで、待たなければなりません。
刻一刻とすぎていく貴重な夏休みに、読者は8人とともにじれるのですが、いったん動き出せば、今までの閉塞気分からの開放感も手伝って、爽快で、大胆で、気持ちよいこと。
いまだ嘗て見なかった恐ろしい事件も起こり、スリリングな場面もたくさん盛り込まれています。
こうしたことは、遊びの中に起こった恐ろしい現実なのですが、それぞれの知恵を寄せ集め、持ち前のチームワークにより、乗り越えます。
ツバメ号とアマゾン号」から続く子どもたちの「遊び」は年季が入っています。霞だけ食べて遊べるわけがないのです。だんだんリアルになってきたわけです。
正直、「金鉱探し」ときたときには、がっかりしたのも事実。でも、遊びといえども、知恵と知識と体力と、自分たちの持てる力すべてをフル回転させて遊びきる彼らだから、とっさのできごとにも対応できたわけだし、すぎてみれば、彼らの「夏」の一こまにしてしまうことさえできるのです。

彼らの遊びの世界は、あちこちに手をのばし、周囲の大人が敵か味方か(もしや、ただ巻き込まれただけの行きずりの人?)わからなくなってしまうのもおもしろい。怪しい人を、相手に気づかれないようにそれとなく見張る、なんて、最高のわくわくじゃありませんか。
あっちへこっちへ飛び火して、思わぬ拾いものをして、にやーり笑って、、ああ、やっぱりすばらしい夏になりました。
ツバメ、アマゾン、Dきょうだい、ばんざい!!

・・・でもね、欲を言えば湖の上をツバメ号アマゾン号が肩をならべて滑る夏であってほしかった。ヤマネコ島も目の前にありながら手が届かないのは、読者としてはちょっとさびしい。
からからにかわいた日照りの夏の金鉱さがしは、あまり日本の夏向きの話ではないかもしれません。なんだかのどがかわきました。
もしかしたら、彼らは大きくなり、冒険するには、湖は小さくなりすぎてしまったのかしらね。