サイラス・マーナー

サイラス・マーナー (岩波文庫)サイラス・マーナー
ジョージ・エリオット
土井 治 訳
岩波文庫
★★★


親友に裏切られ、婚約者も奪われ、故郷を離れ、信じられるものは金だけ、になってしまった織工サイラス・マーナーは、その金も奪われてしまう。
絶望のどん底に突き落とされたサイラスのもとにやってきた天使のような子どもエピー。彼女を育てることによって、人生の意味を見出していく・・・

登場人物の役割(良い人間、悪い人間)が明瞭に描かれています。サイラスの周りの人たちにあやふやさがない分、描こうとしていることがまっすぐに伝わってくるのです。喜びの物語、として。愛の物語として。信仰の物語として。
「大人のためのおとぎ話」と言われているそうですが、納得です。すべての登場人物が寓意を持って動いているようでした。

ほとんどの人間が「よい人間悪い人間」に単純に類別できる一方、若旦那ゴドフリーは、かなりおもしろいです。彼の弱さ、虫のよさ。しかもそこそこ善人で、彼は、ひたすら悩んでいるのですが、人間くさくて存在感があるのです。
彼の存在が、まっすぐなこの物語に厚みを与えてくれたようにも思います。
彼の弱さがそれなりの報いを受けたとき、苦しみつつ、受け入れたところはあっぱれでした。

それから、サイラスがエピーに初めて出会う場面の印象的なこと。金を失って呆然としていた時期。目の前に突然現れた幼子の金色の巻き毛を見て、触って、金が返ってきた、と感じるところ。鮮やかな場面でした。子どもの輝くような美しさを印象づけるようでもあり、その絵が目の前に浮かんできました。

ストーリーは単純ですが、無駄がない分、まっすぐに入っていけました。寓話的なので説教くささも気にならず。気持ちよく、素直に感動しました。
まじりっけのないサイラスの愛情に打たれました。

>それは、いってみれば、夜と朝、眠りと目覚め、雨と収穫のようなものなんですね―― 一つのものがいってしまうと、も一つのものがやってくるのです。

>ええ、この世の中には、いろんな苦しいことがありますよ。私たちにはどうしてもわからない、いろんなものがありますよ。ただ、私たちのしなければならないことは、信ずるということだけですよ。

ところで、ジョージ・エリオットって女性!だったのですね。びっくりでした。