パパの電話を待ちながら

パパの電話を待ちながらパパの電話を待ちながら
ジャンニ・ロダーリ
内田洋子 訳
講談社
★★★★


イタリア中を旅するセールスマンのビアンキさんは、毎晩9時きっかりに、電話で娘にお話を聞かせる約束をしていました。
これは、ビアンキさんが電話で語った沢山のお話のなかの56編。どれもみんな少し短めなのは、電話代がかかりすぎて、あまり長電話できないためだそうです。
・・・電話でお話。現代らしい感じです。といっても、この本がイタリアで刊行されてからもう半世紀になるのだそうです。今だったら、携帯電話が大活躍、でしょうか。それもあっというまに昔になってしまう。

語られるお話も現代的です。エレベーターや宇宙人が出てくるし、政治や戦争に対するやんわりとした皮肉もあるし、ギリシア神話のパロディ(?)ミノス王は車に乗っておでかけするのですから。
だけど、なんといってもこのあたたかさは、パパが愛する娘のために毎晩電話で語ったお話なのだ、ということ。
お話は、どんなふうに形を変えても、語って聞かせたい誰かの存在がちゃんとそこにあること、語る側と語られる側の時間の共有を感じられること、そういうことを大切にすることでは、ずっと変らないのです。そこに温かい空気が流れ、お話が、いきいきと生きていくのかもしれません。

どのお話もおもしろくて、電話の向こうで女の子のくすくす笑いが聞こえてきそうな気がします。どんなに遠くに離れていても、パパのたっぷりの愛情を日々こんな形で感じられる女の子が羨ましいな。


「アイスクリームの宮殿」や「チョコレートの道」がうれしくなっちゃうのは、遊びも甘いお菓子大好きだからです。
甘いもの好きとちゃっかりした怠けものにとって喉から手が出るほどほしいのは「学習キャンディ」に出てくる、瓶入りシロップ。「知識」が、びん入りの飲み物として売られている世界の話。歴史の飲み物を一杯、算数を数匙飲めば、一日分の知識がすっかり頭に入るそうです。しかも甘くて美味しいんですって。ああ、中学生くらいのころ、試験前夜に何本でも飲みたかったよ。


「9をおろして」。割り算で、自己主張する数字の「9」が、屁理屈ならべて繰り下がることを断固拒否する話は新鮮でした。
もしも、割り算のテストをしくじった子が、こんな華麗で大胆な言い訳をしてくれたら、拍手喝采、百点満点をあげたくなります。


「ひとりだけれど七人」は、本当に短いお話だけれど、はっとします。そして、温かさがゆっくりと心に広がっていきます。
こんなに簡潔に、やさしく美しく、平和と命の大切さを訴えた物語がほかにあるでしょうか。そのひとりはきっともっともっと大勢いるはずなんですよね。


ナンセンスな楽しみなら、「うっかり坊やの散歩」。散歩の途中でいつもうっかり何かを落としてきてしまう男の子のお話ですが、この落し物のすごさはちょっと例を見ません。拾って届けてくれる人のおおらかさがすてきです。
それから「アリーチェ・コロリーナ」は小さな女の子のお話ですが、こちらも半端じゃなくて楽しいです。


一番すきなのは「夢見るステッキ」
魔法のステッキに、もはや寄りかかるくらいしか使い道を見出せないくらい年をとっても、こんなに幸せになる方法があるんですね。わたしもいつか通る道。覚えておきましょう。


さて、この本の表紙の装丁もとってもおしゃれで大好きなのですが、イタリアで出版されたときにはブルーノ・ムナーリが装丁を担当したんですって。
見てみたいなあ。