少年少女飛行倶楽部

少年少女飛行倶楽部少年少女飛行倶楽部
加納朋子
文藝春秋
★★★★


>だって、君だって飛びたいでしょ?(中略)商店街でもらった風船につかまって、空高く飛んでいきたいって、考えたことはない? ほうきにまたがって、飛べたらいいなって思ったことはない? ドラえもんタケコプターが欲しいって思ったことは?
楽しかった!
ああ、笑って笑って笑いました。
作者加納朋子さんがあとがきで「底抜けに明るい、青春物語が書きたくなりました。それも、中学生が空を飛ぶ話が」と
言われているとおり、ほんとにそのとおりの物語でした。

舞台は、とある公立中学。部長とほぼ幽霊部員の副部長の二人しかいない(実質ひとり)という飛行クラブに「ひょんなこと」から入部してしまった海月。
しかし、正式な部として学校に認定されるには部員5名以上必要、まずは部員確保から始めなければならない。というより何より、「飛行クラブ」ってなんなの、何するクラブなの?
会則より抜粋。

>あくまでも「自分自身が」飛行することを旨とする。・・・究極的には、理想を言えばピーター・パンの飛行がベストである。
冷静に考えれば、こんなに話がうまくいくわけないよ、無理がありすぎるよ、と茶々を入れたくなるところがたくさんあるのですが、そんなこと、どうでもよくなってしまう。
ここに出てくる少年少女たちがすてきで、一生懸命で、読んでいるこちらも、がんばれがんばれ、と応援したくなる。どうしても彼らを飛ばしてやりたい、飛んでほしい、と心から願うようになります。
>あら、部活ってこんなに楽しいものだっけ?ってなものである。人間関係って、本当に大切なんだなあと実感した次第。
主人公の初恋(の一歩か二歩くらい手前)の気持ちも微笑ましい。こういう人にこういうふうに惹かれるんだー、なんだかいいね(どこが!と突っ込まれそうだけど)
それから心に残る言葉「大人が動けば、そりゃ物事は動く。だけどな、その大人を動かしたのはおまえらだよ」――うんうん、これは児童書の王道ともいえる言葉だけれど、ストレートに言われるとやっぱりうれしくなってしまう。

見るからにお気楽そうな連中の言葉のなかから、時々どきっとするような言葉が出てくるのも考えさせられました。
ことに名づけ。
子どもの幸せを祈ってつけたはずの名前が、子どもにとってしばりになっているかもしれないこと。一歩間違えれば呪いにもなってしまうかも。考えてもみませんでした。それが、子どもの側から出た話になっていることが、親のひとりとしては、きつかったな。否定できないだけに。
また、女子の友人関係特有の風通しの悪さ。「二人組みの怖さ」なんて、あの子の口から出たときはどきっとした。

子どもたち、大変なんだよね。どうしようもないお気楽連中に見えた彼らがこんなにきつきつの現実の中にいて、いろいろな方法で(自分でも気づかないまま)重荷を軽くする方法を講じていた。一生懸命笑っていた。
そんな彼らを描く作者の筆はとってもとっても温かい。やさしい。

そんなもの全部ひっくるめて、だから空を見上げる。「飛びたい!」と。
だから飛んで欲しい。飛ばせてあげたい!と心から願う。
あなたたちみんなとっても輝いている。とってもすてきだよ。そのまんま、今のまんまですてきなんだよ・・・中学生のあなた達。


PS 名づけの件、余談として。
作者名かのうともこさん、で間違いないですよね。いや、まさか、と思ったのですけどね、るなるなこさん、とか・・・ない、ですよね(笑)