長い冬休み

Huyu長い冬休み (アーサー・ランサム全集 (4))
アーサー・ランサム
神宮輝夫 訳
★★★★★


>「とんま!」と、ナンシイはささやき声でいった。「とんま! ほんとに、ばかで、あほうで、カボチャ頭ね! これ以上はのぞめないすばらしいことがおこったのがわからないの? これで、なにもかもすっかりうまくいくのよ。探検全部が生きたのよ。これで、まるまるひと月休暇がのびたのよ。そのひと月がおわるずっと前に、湖はすっかりこおるわ。探検隊は、北極海の氷をこえる正式なやり方で極点までいくのよ。」
再読。
姉弟が初めて登場します。
冬休み、ディクソン農場に滞在中のカラム姉弟(都会っ子で、物語を書くことが大好きな夢想家ドロシア、天文学者のディック)は、ツバメ・アマゾンの探検隊と出会い、合流して、北極をめざします。
姉弟は、その登場からしてとっても魅力的です。まだ知り合う前のハリハウのウォーカー兄弟を火星人(!)に見立ててカンテラで合図を送るところなど、わくわくしてしまいます。この子達大好き、と読者に思わせてくれるエピソードではありませんか。

「人間て街で育てっぱなしにしておいちゃだめね」
というスーザンのせりふには思わず噴出してしまうのですが、それだけのことを言える生活力を持ったツバメ・アマゾンの子どもたちがうらやましくて仕方がないです。わたしはドロシアよりもっともっとひ弱なのですから。
(・・・というより、他の子どもたちが個性的、すごすぎ、ですよね。ドロシアはむしろ普通の女の子らしい女の子だったと思います)
ドロシアのこの冬の喜びに同調し、彼女といっしょに一瞬一瞬に感動し、一生忘れられない冬休みを過ごした彼女のことが嬉しいのです。
姉弟が、初めて探検隊員たち(冬はヨットを使えないので、海賊稼業もお休みです、ツバメ・アマゾンの6人は揃って探検隊員になっていました)に合流したとき、ドロシアが感じたことは、わたしには、ほぼ実感でした。

>ドロシアは、きょうだけは物語をつくっていなかった。物語の中にいたからだった。
最後の北極をめざす三つの隊の物語は緊迫感に満ち満ちて、それまでちびちび読んでいたものを一気に読みきってしまいました。
姉弟が、都会っ子なりの不器用さとひ弱さと自然への無知を、彼らなりの個性と純粋さで補い、他の六人をしのぐような活躍をする、というのが最大の見せ場です。
都会っ子、都会っ子、とやたら書かれるものだから、ちょっとすねたくなった(笑)わたしですが、それだけいつのまにかD姉弟を好きになっていたのでした。
一方では、D姉弟中心の物語なので仕方がないのかもしれないのですが、ほかの6人の個性の描かれ方がちょっと薄くなってしまったように感じて、その点は不満でした。
ただ、D姉弟を気遣いながら北極へ向かう子どもたちの心情はそれぞれにすばらしかった。特にジョン・・・
それから、おたふく風邪にかかってしまったナンシー船長の留守を預かるペギィ。これまで大して目立たなかった彼女が必死にナンシーの代わりを務めようと努力するところが、微笑ましいです。

どの巻にもいえるのですが、アーサー・ランサム自身による茶目っ気たっぷりの味のある挿絵がとってもよいです。特にお気に入りは、おたふく風邪のナンシーと子どもたちが、二階の部屋と庭とで、窓をはさんで手旗信号で会話をする場面の絵。ナンシーの顔のあるべきところにおおきなまん丸の白紙をあてがい、その中に小さな字でこんな言葉が書かれています。
「ナンシイのふくれたかおはきのどくでかけない」
ベックフッドと探検隊とのあいだでやりとりされたいくつかの絵手紙は、それぞれ重大な意味を持ちますが、これは挿絵にずいぶん助けられました。