ハブテトル ハブテトラン

ハブテトル ハブテトランハブテトル ハブテトラン
中島京子
ポプラ社
★★★★


ハブテトル ハブテトラン。
この呪文のような言葉は備後地方の方言だそうです。意味は、本の中に。
二人の子どもが口げんかをしながら「ハブテトル」「ハブテトラン」「ハブテトル」「ハブテトラン」と繰り返す場面は微笑ましく、不思議な語感が楽しかった。

小学5年生のダイスケは、一学期に、さまざまなことに疲れ果ててしまい、学校に行けなくなってしまった。
二学期だけ、「留学」みたいな形で広島(福山市)のおじいちゃんおばあちゃんの家に預けられ、広島の学校に通うことになった。

>松永第二小での日々は、それなりにうまくいっている。
特別いいってわけじゃないけど、ちっとも悪くないのが気にいった。
という感じで始まった新しい生活。
ころころ転がるような不思議な備後言葉の連続。標準語の世界から来たら、この音のなかで暮らすのは、それだけで弾むような気持ちになる。
そして、瀬戸内海の美しい海。
健康な力が体の奥からよみがえってくるのを感じずにはいられません。
圧巻は、今治への旅。喉に突き刺さった小骨のような思い出に決着をつけるための。
それからおじいちゃんの花道。つぶさに目に焼き付けることができたことがうれしい、羨ましい。
芽生えた友情、育つ信頼。深まる心の通い合い。
町おこしのために始まった「ゲタリンピック」や伝統が受け継がれていく祭り「だんじり」、町じゅうが力を合わせて盛り上がる行事の多い土地は、人と人との心の通い合いが密です。それはある意味鬱陶しくもあるのですが、温かいです。そして、みんなで力を合わせて人の子も自分の子もなく大切に子どもを育てようという暗黙の了解があるように思います。

特にお気に入りの登場人物はハセガワさん。ダイスケとは61歳も年がちがうのに、彼のなかにあふれる瑞々しさ、やわらかさ、こだわりのなさ・・・頑固なようでいて、とても若々しい心は、埋めることのできないほどの苦しみと悲しみと後悔の果てにたどり着いた世界なのでしょうか。こんなすてきな先輩にめぐり合えたダイスケがこれまたうらやましいのです。

ダイスケの一人称で語られる物語は、最初、どこか斜に構えたような「まあ、どっちでもいいけどね」とでもいうような、無理して醒めているような大人びたイメージがあった。
それが、瀬戸内の美しい気候と弾む言葉と昔ながらの行事、心の通い合いのなかで、変っていく。文章がどんどん素直になって、柔らかくなっていくのです。

最後のダイスケの決断、すてきです。自分で決めたこと。この土地にもまれながら、成長したことがうれしい。素直に涙が出てきました。
こんなすてきな「ふるさと」を胸に抱いて成長できるダイスケは幸せ。
だれもがこんなふるさとを持っていられたらいい。(有形に限りませんヨ。)

(おまけ)
「ルナ」のプリントップって、ほんとにあるのでしょうか。プリン・ア・ラ・モードじゃなくてプリントップです! お好み焼きもアイスクリームも気になりますが、なんたってプリントップが食べたくて食べたくて溜まりません(笑)