ヤマネコ号の冒険

Yamaneko_3ヤマネコ号の冒険 (アーサー・ランサム全集 (3))
アーサー・ランサム
岩田欣三 訳
★★★★


再読です。

フリント船長を船長にして、ツバメ号・アマゾン号乗組員達は、快速スクーナー船「ヤマネコ号」で本物の海に出ます。ツバメ号を船載用ボートとして搭載し、老水夫ピーター・ダックを乗組員に迎えて。
少しクラシックな本物の冒険が始まりました。宝探しの大冒険です。

今までの二冊に出てきた大人たちは、みな子どもたちの味方でした。温かいおおらかなまなざしで、子どもたちを見守る人たちばかりでした。
ところが、この本には本物の悪漢が出てきます。執拗にヤマネコ号に追いすがってきます。
最初からどきどき。
ずっとどきどき。
もったいないからゆっくり読もう、と最初は思って手にした本だったはずなのに、夢中になり、あっというまに読み終えてしまいました。
今までの、子どもたちの想像力たっぷりの大冒険から、がらりと様相が変ってしまい、どちらかといえばスティーブンスンの「宝島」を思い出します。物語が大きくなりすぎて、おもしろいにはおもしろいけれど、とまどいを感じたのも事実でした。

とはいえ、見所はたくさんあります。
まず、ヤマネコ号に、心から頼れる素晴らしい大人が二人いること。もちろんフリント船長とピーター・ダックです。
冒険者である子どもたちの見守り手として、こういう大人がいるのは頼もしく、ほっとしていられるのです。
だけど、ここぞという冒険はちゃんと子どもたちの手にある。大人の手を借りず(むしろ子どもが大人を助けて)子どもたちがやってのけるのです。
正直言って・・・宝発見についてはちょっとあっけなかったような。・・・でも、あそこでもっと複雑にしたらページ数いくらあってもたりないかな。ほかにも冒険がてんこもりだから。
どきどきして、わくわくして、そしてやり遂げる。大人の手を借りず、大人そこのけの大冒険を。これがクライマックスです。そして陰から支える大きな大人たち。
とってもすてきな構成だと思いました。

それから、ツバメ号が初めて海を走ったこと。ジョン船長だけじゃなくて、一読者、一ファンとして、わくわくするのです。ヤマネコ号は素晴らしい船だけれど、やっぱり小さなツバメ号がどんなに好きか。そうか、わたし、子どもたちが好き、と思っていたけれど、実はツバメ号という船がどんなに好きになっていたことか、改めて知りました。
ジョン船長の気持ちがわかるわかる。

>ぼく今こうして、ツバメ号のかじをにぎって、さめがいて泳ぐことができない海域を、見しらぬ熱帯の海岸ぞいに走っている。そうとも。今こそ、この世でなにかのぞみがあるかときかれても、もうほしいものはなんにもないといってもいいようなひとときなのだ。いま、こうしていることよりいいことなんてあるだろうか?
求めているのは、奇想天外な大冒険ではないのだ。「土人的な生活」から一瞬(夏休みの間だけ、とか、キャンプの間だけとか)解放される瞬間。自分が最も自分らしくなれる瞬間なのだ。
そして、ツバメ号はその象徴なのではないか、と思ったのでした。
わたしにとっては、実際、この本のなかで、大冒険の大きな物語よりも、この一瞬のツバメ号帆走場面が一番好きなのです。

この本の原題は「ピーター・ダック」(このままのタイトルのほうがよかったかな)
二巻「ツバメの谷」で、ティティの想像の世界の住人だったピーター・ダックが、本物になって現れました。
子どもたちの希望が、冒険が、てんこ盛りの奇想天外ストーリーは、実際にあった出来事というより、子どもたちの夏休みの谷間に、彼らのノートにつづられた「お話」かもしれません。
これはこれでおもしろいです。全集中にこんなのが入っているのが楽しい。

でも、次の巻で、ちゃんと湖水地方に帰ります。いよいよ大好きなD姉弟が出てくるのも楽しみです。