夏への扉

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))夏への扉
ロバート・A・ハインライン
福島正実 訳
ハヤカワ文庫
★★★★


冷凍睡眠(コールドスリープ)、タイムトラベル・・・SFだなあ、やっぱり。でも、SF苦手でも、これは楽しめます。楽しめるどころか最高の読後感でした。
どん底からの逆転、「夏への扉」の、夏の意味。なんて気持ちのいい物語だったことか。

正直、タイムトラベルに関する理屈は難しいし、こんがらかっちゃってて、いまだによくわかりません。でも大丈夫でした。しかも、このすてきな物語をハインラインは1957年に書き上げた、というのですから、その想像力の豊かさに驚いてしまいます。
一気に読みきって、とにかくラストがすばらしかった。

でも、この本が名作、と呼ばれるのは、そして、これだけの清清しいラストに素直に感動できるのは、SFというジャンルを超えた骨子の確かさの故ではないか、と思うのです。とはいえ、SFとしてしか成立しない物語ですが。
技術屋で不器用でめちゃくちゃお人よしの主人公。この彼がお人よしだからこそ痛い思いをして、お人よしだからこそ幸福になれる、というのが好き。なんだか昔話に似ている。(近未来の物語なのにね)

ひとこと言わせていただくなら、悪女に騙されて目が覚めて、ほんとに愛する人がわかった、みたいなのは、女の側から言えば、何を虫のいいこと言っているのよ、ですが。
楽しい読書をさせていただきましたから忘れてあげます。

猫のピートの最高の相棒ぶりも好きです。(「護民官」とはよくぞ言いました)
「なべての猫好きにこの本を捧げる」との献辞がついていますが、猫が活躍する物語ではありません。でも、この猫ピートは、ただの脇役ではありません。(読了後にそう思いました)
たぶん、彼こそこの物語を引っぱる重要な鍵なのです。
「どこかに夏に通じている扉があるはずだ」とうち中の扉を探し回る・・・この意味。
ピートが物語をしっかり最後まで導き、さらに次の扉をさがし、あけようとしています。さらなる「夏への扉」を。