切手で旅するヨーロッパ

切手で旅するヨーロッパ切手で旅するヨーロッパ
山田庸子
Collection:BUSY TOWN
ピエ・ブックス
★★★★★


切手っておもしろい、と最近思いはじめました。
小さな枠の中にある小さな絵は、額縁をつけた完璧な絵画みたい。この小ささに惹かれます。ノートンの借り小人たちだったら、喜んで絵の額として、壁に飾ることでしょう。

この本に出てくる切手たちは、ほんものの切手です。こんなに可憐なものたちが、ほんものだなんて嘘みたい。
希少で価値の高い切手とかを集めたものじゃないのです。あくまでも、この本の筆者の感性に見合ったものだけをならべたコレクションです。
そのこだわりがとってもすてきなのです。

まず、童話をテーマにした切手たちの美しさに魅了されました。グリム童話をはじめとする民話や創作童話の一場面を切り取ってならべて見せてくれます。・・・ああ、図書館の絵本の開架書架を眺めているような喜び!
クリスマスやバレンタイン、イースターなどの切手もあるんですよ。それぞれの行事の季節に合わせた、おめでとう、の明るい喜びに満ちた美しさ。楽しさ。
国ごとに分けた切手も・・・どれも刺繍や緻密なアップリケの図案に使えそう、と思ったら刺繍額をそのまま切手にしたものも。
最後の方には郵便はがきや封書に貼られた切手に消印つきのものが並んで出てきました。宛名まで美しいのです。

切手たちがこんなにチャーミングに見えるのは、この本の製作者の余裕の遊び心とセンスの良さのせいでもあります。
レイアウトや、ページの順序。おもちゃ箱のようにぎっしりと並んだ切手のページがあるかと思うと、暗い無地の画面に一枚ぽつんと。この一枚を存分に観賞なさいね、といっているように。そして、切手そのものが思い思いの大きさに拡大されていたりするのです。ページいっぱいに大きく引き伸ばされた切手は、その印刷のかすれ具合、jにじみ具合まで、素敵です。
この本、きっと楽しんで作られた本に違いありません。

作者が切手を集め始めたきっかけがまたすてきなのです。
まだベルリンに住み始めたばかりのころ、市内の裏通りを散策中、ふとみつけた古ぼけた小さな切手屋さんに引き寄せられるように入ります。用を聞かれて、とっさに「母に手紙を出したいのですが、切手を見繕ってくれませんか?」と頼みます。
それに対して、店主は、いくつかの質問をしながら、数々のストックブックを広げて、3マルクのなかにおさまるようにいくつかの切手を丁寧に選んでくれたのだそうです。
3マルクと印字された切手を一枚「はい」と差し出すこともできたでしょうし、「郵便局へ行ったほうがいいですよ」と言うこともできたのに。
そして、その選んでもらった切手たちには小さなストーリー性があった、というのです。
ため息をついていしまいました。
小さな印象的な忘れられない思い出が、「切手」という小さな世界にぴったりの物語に思えました。

わたしも切手を集めてみたくなりました。素手で触るのも恐れ多いようなすごいお値打ち切手ではなくて、持っているというだけで自然に顔がほころんでしまうような綺麗な切手を。そして、惜しげなく、気軽にあれこれの便りにぺたっと貼って投函できるような気さくさのある切手を。