猫町

猫町猫町
萩原朔太郎
金井田英津子
パロル舎
★★★★


「猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。どこを見ても猫ばかり。」の物語は、意外と短いのです。締りの良いショートショートになりそうですが、その物語に入るまでの前振りが長いのです。
そしてこの前振り、どこまでがほんとうの話なのか、夢なのか幻なのか、と思うような不思議な雰囲気があるのです。
方向感覚がわからなくなり、良く知っている場所なのに不思議な風景の中に迷い込んでいく。
電車に乗っているうちに東から西に向かって走っているはずが、ふと西から東に向かって走っているような気がすること。これはわかります。
電車に乗って、下を向いて夢中になって本を読んでいるとき、ふっと顔を上げると、「あれ、さっきと逆の方向に走っているんじゃないの?」と思うことがあるのです。一瞬戸惑いながらも、ちょっとわくわくします。
こういうことを一つの不思議な「旅行」と呼ぶのは素敵です。
こんな不思議な『旅行』の話が続き、そのあと猫町に誘われるのです。「・・・事物と現象の背後に隠れているところの、ある第四次元の世界――景色の裏側の実在性――を仮想し得るとせば、この物語の一切は真実(レアール)である。・・・」との言葉で。
一瞬の猫町への旅。この旅の不思議さ、不気味さ、奇妙な美しさがくっきりとした印象になリ、妙に心に残るのは、この長い前振り話のおかげです。

金井田英津子さんの絵はやっぱり素晴らしくて、先の汽車の話の、駅と駅がさかさまに、煙突の細い煙がメビウスの輪になって繋がっている絵など、手許に持っていたいと思います。
そして、猫町はまさに「猫町」なのですが、『夢十夜』から続けて読んだためか、先の夢十夜の印象が強くて、凄みでちょっと引けを感じたかな。
でもやっぱりいいんですよね〜、この絵。うっとりです。