夢十夜

夢十夜夢十夜
夏目漱石
金井田英津子 画
パロル舎
★★★★


幻想的な夢の話ばかり10編。
そしてそこに金井田英津子さんの版画が添えられています。添えられている? いえ、むしろ、夢十夜を題材にした金井田英津子さんの画集、といったほうが正しいような気がします。
夢十夜」って、ただでさえ映像的な作品、言葉で描いた絵のように感じましたが、この絵は、夏目漱石の端正な文章に決して引けをとりません。
美しい狂気も凄みも余さず見せてくれます。絢爛豪華な感じ。でも、絵の奥にはこわいほどの静けさがある。
版画らしい(?)黒い闇や、妖しげな色の重なりも、いかにもこの世ならぬ感じで、夢の世界なのだ、と思うのです。
そして、この絵はずっと忘れられないように思います。たぶん。
これは金井田英津子さんの『夢十夜』のイメージなんだぞ、私の『夢十夜』は別にあるはず、と思いながら、もう、最初からこの絵のイメージしか持ってなかったような気持ちになるのです。おそるべし。

第一夜の百合の花の絵が、わたしは一番印象に残っています。まさに冥界から舞い戻って咲いたような風情。寂しげではかなげで、消え入りそうなように見えながら、妖しく、どこかぞくりとする凄みを感じるのです。

物語は、第五夜が一番好きです。馬に乗って疾駆する女の姿が目に焼きついています。あっと声をあげそうになるその顛末も。

それから第六夜。運慶の話ですが、この文章の一部(?)が、はるか昔、高校入試の国語の長文読解の問題文になっていたのです。それまで『夢十夜』なんて読んだこともなかった受験生のわたしは、読んでも読んでも、さっぱり状況が読み取れなくて、もうぼろぼろでした。
夢十夜」を通読したのは、無事に(笑)高校生になってからですが、その後、「まさか、夏目漱石が、江戸時代にタイムスリップ(?)する明治の大工さんの話を書くなんて夢にも思わなかった〜」と、あちこちで言っていたのですが、ひゃ〜。久々すぎるくらい久々にこの物語を読んでみれば、そんな話どっこにもないじゃないですか〜。
おまけに『運慶』という名前が記憶にまったくない。当時、日本史の時間、いかに良く寝ていたか、ってことなのでしょうか。ああ・・・