ぼくの羊をさがして

ぼくの羊をさがしてぼくの羊をさがして
ヴァレリー・ハブズ
片岡しのぶ 訳
あすなろ書房
★★★


ボブさんの羊牧場で生まれたボーダーコリーの子犬。父さんたちと一緒に牧羊犬として働き始めたばかりだったのに、突然の災難に見舞われたボブさんの牧場。何がなんだかわからないうちに子犬は売られてしまう。
そして、それが彼の長い旅の始まりでした・・・

この子犬が主人公です。長い旅の間、色々な人に会い、いろいろな名前で呼ばれたけれど、ルークにつけてもらったジャックという名が一番気に入っている、と彼がいっているので、この犬のことをわたしもジャックと呼ぶことにします。
はじめに「ルークと出会うまで、苦しいことがいっぱいあった・・・」と書かれていたので、ああ、ルークという子どもに出会ってジャックは幸せになったんだな、それまでの物語なんだな、と思いながら読みました。
旅の途上、つらいことに出会っても、絶対ハッピーエンドが待っている、と思いながら安心して読みました。

旅の途上で出会う人たちがどの人もどの人も個性的で印象的です。ヤギのおじいさんやでこぼこの泥棒コンビが特に好き。
良い人、親切な人、よくわからない人、残酷な人・・・沢山の人が出てきました。
どの人に会っても、ジャックのけなげさ、まっすぐさは、曇ることがありません。
そして、どんな経験からも、いつの間にか何かを吸収しているのです。(のちのち、ちゃんとその経験は生かされるし)

ルークとの出会いは、印象的でした。
あった瞬間、まだ名前も知らないうちに「あ、やっと会えたんだ」と思いました。そして、ちらっとガブリエル・バンサンの絵本「アンジュール」を思い出しました。
だけど、この出会いはゴールではなかった。
ルークも辛い身の上でした。
ジャックは、さまざまな人と出会い、ルークの何が問題なのか、何が必要なのか、わかりました。
ルークと出会ってからのジャックがよいです。物語の一番大きな山場でもある。
「アンジュール」を思い出した、と書きましたが、ジャックがさがしていたのは愛だけではありませんでした。
彼は誇りを持った犬。腐っても鯛――いえ、野良暮らしでも牧羊犬、でした。
ペットとしてかわいがられることを望んではいなかったのです。
あくまでも牧羊犬として生きがいを持って生きたかった。それがなければ、彼の放浪の旅は終わらないのです。
生きる目標をしっかりみつめているから、ひたむきに生きられる、ともいえると思います。(現代では、その目標がなかなか見えてこないのだけど。)

さて、旅の途上であった人のうち、ヤギを連れて旅するおじいさんのことを最後にジャックは夢にみます。
夢のなかでおじいさんはこんな話をしてくれます。
「寝る場所、あったかい食事、正直な仕事、苦労を分かちあう友。これだけそろえば幸せになれる。しかし、もうひとつ、大事なものがあるねえ。・・・それは、自分の一生は役に立った、と最後に思えることだ。自分なりに考え、努力をし、世の中をすこしは住みよい場所にした、と思えることだよ」

この物語のハッピーエンドが、実はゴールではなく、新たなハッピーエンドに向かうためのスタートラインなのだ、ということに気がつきます。
そして、おじいさんのこのことばがそのためのはなむけになっているのでした。爽やかな読後感でした。