ハートビート

ハートビートハートビート
シャロン・クリーチ
もきかずこ 訳
堀川理万子 絵
偕成社
★★★★


これは、詩です。詩は物語になっています。
一文一文はとても短いし、一冊を読み終えるのにそんなに時間はかかりません。
でも、この小さな本の中に詰まっているものは決して小さいとは言えないのです。


主人公アニーのまわりではいろいろなことが変わっていく。
おかあさんのおなかのなかで育っている小さな命のこと。
生涯を終えようとしているおじいちゃんのこと。
自分にとって大切なもののこと。
わかってほしいこと。わかりたいと思うこと。


アニーは走ります。走ることを心から楽しみます。
アニーは描きます。百日間、おなじリンゴの絵を。
もくもくと走ることも、毎日同じ絵を描き続けることも、よく似ているような気がするのです。
おなじことの繰り返しを、なぜ息をつめるようにしてみつめてしまうのだろう。
まわりは刻一刻と変わっていく。くりかえすアニー自身の思いも考えも移り変わっていく。
それでも、走る。描く。
それを見つめる私は何を待って居るのだろう。待って居たのだろうか? 待って居たのかな、その自覚もなく。
繰り返しのなかから、ある日突然さっと光が射して、その光の眩しさにおどろくことってあるのだ。
大きな驚き、そして驚く自分に吹いている風のさわやかさにも気がつく。


色々な音がリズミカルに聞こえてきます。
自分の足もとのタッタ、タッタ
心臓の音はトクトク、トクトク
おなかのなかのあかちゃんの心音はワシャワシャ、ワシャワシャ
なんて賑やかでなんて美しい音たち。全部いのちの音。


挿絵がいいです。
本をぱらぱらぱら・・・とめくっていくと・・・ああ、このリズム。
歌っているよう。タッタ、タッタ。
続きを歌いましょうか。タッタッタタン♪ 足が自然にリズミカルに跳ねている。


それからもう一つおまけ。
脚注。脚注は文章をざくざく無慈悲に切り刻む、そうかと言って無視もできない面倒なやつ。と思っていました。
それが、うふ、こんなにチャーミングな脚注たちがあったのだ♪