愛蔵版アルバム アストリッド・リンドグレーン

愛蔵版アルバム アストリッド・リンドグレーン愛蔵版アルバム アストリッド・リンドグレーン
ヤコブ・フォシェッル 監修
石井登志子 訳
岩波書店
★★★★


読み応えのあるアルバムでした。
リンドグレーンの両親の物語(リンドグレーン自身による)、リンドグレーンのおいたち、そして、子ども、夫、縁の場所(別荘のある島フルスンド、自宅のあるダーラ通り)、仕事や友人達・・・最も近いところから徐々にそのまわりへまわりへと波紋のように広がる世界。ふんだんな写真とそれに添えられた興味深いたくさんのたくさんのエピソードは、そのひとつひとつに心温められ、悲しみ、そして、どこにもかしこにも温かい笑いがありました。

風景や家々に見入り、ああ、やかまし村なのだ、ウミガラス島なのだ、カッレ君が駆け回る町なのだ、と作中人物がのびのびとそこに立ち現れるのを感じ、初めてみる風景なのに、なんだかなつかしくて。
そして、意志の強そうな目をした少女が、おだやかな顔の大人に変り、そしていたずらっぽい目をしたおばあちゃんになっていくのをじっくりと眺めました。

たくさんの判子が押されたパスポートのページの写真があります。息子のラッセを3歳までコペンハーゲンの養母に預けた彼女はストックホルムからお金を貯めてはたびたび息子に会いに行ったそうです。○年○月○日コペンハーゲン入国、同日出国、○年×月×日コペンハーゲン入国、出国、○年□月□日コペンハーゲン入国・・・

リンドグレーンの運転免許証の写真もあります。彼女はあまり運転向きではなかったようで、スウェーデンで一番高くついた免許証となったそうです。「教官としてはできる限りのことはしたとピッピにお伝え下さい。あとはご自身の練習次第です!」との言葉に見送られ晴れて自家用車で走り出したものの、一年で、自分の運転手としての限界を知るに至ったそうで、このことは家族を大いに安心させたそうです。


挿絵画家イロン・ヴィークランドさんと彼女の愛犬と一緒の写真もありました。・・・実は、この写真を一番見たかったのです。この本の中にある、と聞いていたので・・・
見つけたとき、あっと息を呑みました。ヴィークランドさんの犬。こちらを向いたあの犬は、ヴィークランドさんご自身の少女時代を描いた絵本「ながいながい旅―エストニアから逃れた少女」のあの少女と一緒にいた愛犬でした。
ながいながい旅―エストニアからのがれた少女 (大型絵本)
・・・そうだ、最初に触れるべきでした。この本の一番最初に掲げられた監修者のフォシェッル氏の序文のこと。
ベッドで執筆することの多いリンドグレーンに、ベッドルームでの執筆風景を写真に撮らせてほしい、と頼んだところ、丁寧な断りの手紙がきた、と書かれていました。
次のページに、タイプ打ちされたその手紙がのっています。その訳文も添えられていました。ちょっとだけ引用させてくださいね。
>(前略)でもね、ほら、あなたもおわかりくださるでしょうが、ベッドでの写真は、寝たきりの年寄りになるまでは撮っていただくことはできませんわ。(中略)でも時々はお便りをください。そうすれば、あなたが生きていて、お元気だとわかりますからね。
なお、この手紙が書かれたのは1992年。ということは、アストリッド・リンドグレーンは85歳。フォシェッル氏は49歳か50歳。
この手紙、あまりすてきなので、シロップにして炭酸で割って飲みたいくらいです。。

このすてきな本は、開いているあいだじゅう私を幸福にしてくれました。こんなに豪華な本をいつでも好きなときに貸し出してくれる図書館様の懐の大きさに感謝感謝です。