おとぎの国の郵便切手

おとぎの国の郵便切手おとぎの国の郵便切手
安野光雅
岩崎書店
★★★★★


ある国で、郵便を始めることになり、ついては切手を作ることになりました。
大臣は切手のデザインをペンタという修行中の絵描きに頼みます。
ペンタがつぎつぎに切手の絵を描くと、大臣が次々にダメ押しをします。
ペンタが描く絵の図柄はほとんどがお伽噺から録られたものなのですが、
このお伽噺が、ちょっとおかしな味付けになっています。
ゴールデンボーイ、ピーチボーイ、わかりますか?わかりますよね。
親指ボーイもよろしいですか? ヒノキオもね。
だけど、鮫をだまして皮をひんむかれたうさぎを助ける神様がなぜかギリシア神話風のローブを着ている。斬新。
大好きなのは、「キン・ジロー」と名づけられた切手です。
ヨーロッパ中世の学者風の美しい少年がマキを背負って本を読みながら歩いています。
また、舌切り雀の絵は、片手にすずめ、片手にはさみのおばあさんの絵なのですが(このおばあさんも異国の不思議な衣装)
これに対してダメ出しの大臣が「優しいばあさんを描け」とリクエスト。
ペンタは考えます。「やさしいおばあさんを、一枚の絵では描きにくいなあ」
・・・なるほどなるほど。優しい人ってインパクトがないんだ!


それにしてもこの切手、ほんとにこんなのがあったら絶対ほしい!
それはそれはきれいで素敵なデザインなんです。色も素敵。構図も素敵。全部コレクションとして持っていたい。
ふと、以前読んだ平出隆の「葉書でドナルド・エヴァンズに」(感想こちら)を思い出しました。
架空の国の架空の切手を描き、自ら自分の作品を蒐集したドナルド・エヴァンズという画家のこと。
そして、この画家のまぼろしの画集(切手帳?)を見てみたいと思ったこと。
なんだか安野さんがかなえてくれたような感じ。(画風は全く違うのですが)


切手、この小さな枠に囲まれた小さな世界。
なんでこんなに魅了されてしまうんでしょう。
小さくても、手を抜くことのない芸術。ひとつの完成した世界。
引き込まれてしまいました。
絵本、と言うより画集として、この本(掌からちょっとはみだすくらいの小さな本なんです)を手許にほしくなってしまいました。


ところで、一番最後のページには、本物の切手が貼ってあります。(印刷されたのではなくほんとに貼ってあるのです)
安野光雅さんデザインの津和野の風景を描いた80円切手。日本郵便と書いてある。
真っ白なページの真ん中にぽんと貼られた一枚が美しく、また、いきなりの本物の切手の登場にびっくりします。
だけど、これほんとのほんとに本物ですよね。まちがいなく。まさかからかっているんじゃないよね。
・・・じいっと見ています。