ニューヨーク・スケッチブック

ニューヨーク・スケッチブック
ピート・ハミル
高見浩 訳
河出書房新社
★★★★


初老の男が町角で若い日に分かれた恋人と再会する。
「わたし行くわね」と家を出て行く妻を無言の背中で見送る夫。
不倫の美しい妻ののどを掻っ捌いてしょっ引かれる男を見送る近所に住む少年。
何もかも失って活き活きした思い出にすがろうとする老人。
酒場では恋人に振られたり、旧友と再会しながらも妙に居住まいが悪い気がしたり、
おもいがけない贈物に心がときめいたりする。

決して歴史に残る人々ではない。
本人だって「そんなことあったかな」と忘れてしまうような小さな出来事。
でも、そんな小さな出来事や小さな感情、人々の夢や失望が縒り合わさって都市ができている。
ニューヨークという大都会が。

34編の小さな物語は、まさに、そんなニューヨークのスケッチ集のようでした。
どれもそれぞれに普通の人の生活の中から小さな感情の切れ端を切り取って見せたような物語で、ひとつひとつにしみじみとした余韻があります。

好きなのは、
4話目。酒場で、作家のところに「おめえはおれの女をとった」といちゃもんをつける男。二人の会話が微妙にかみ合わないのがおもしろい。最後にはこの男憎めないかわいいやつになってしまうのが微笑ましくて好き。
10話目。ある男の少年時代のファンタジックな思い出も好き。彼は錬金術師にあったのでしょうか。倉庫の魔法の扉の向こうで。
21話。これもやはり少年が出会った奇妙でちょっとかっこいい男の話。ちょっと時間がたてば、「ほlんとにあんなことがあったのかな、何もかも夢だったのかな」と思ってしまいそうな不思議で素敵な出来事。

子どもが主人公の話がわりと好きでした。子どもの目で見るファンタジックな不思議な思い出の風景。それから普通のルーティンな暮らしの中に落ちていたちょっとした嬉しいことを扱った話なども好きです。

ただ、一度に全部読むのは疲れます。最後はちょっと飽きてしまいました。スケッチなのだから、ぽつぽつとあちこちのページをさらりと眺めるように、気ままに、飛び飛びに読むのがいいのかもしれません。
きっと少し昔のニューヨークの雰囲気を愛する人にとっては心から楽しめる本なのではないかしら。