アイリッシュ・ハープの調べ

アイリッシュ・ハープの調べ―ケルトの神話集アイリッシュ・ハープの調べ―ケルトの神話集
マリー・ヒーニー
大野光子 監修
河口和子-河合利江 翻訳
春風社
★★★★


まず、表紙カバーのシックな美しさに惹かれました。
中心に不思議な文様・・・これは、何か特別な意味があるのでしょか。本の中にもこれに似た挿画が何度も繰り返し出てきたので。もしかしたらまじないの一種かな。ふと、ちょっと前に読んだ「アルネの遺品」の中にでてきた「結び目」の話を思い出しました――この結び目は風を結んであって、結び目を緩めることによって風を起こす、というもの。そういうものかな、と思ってみていました。
そして、まわりに配された人や動物たち、植物、これはみんな本の中の神話の中に登場するものたち。(読み終えて改めて眺めれば、物語が蘇ってきます)・・・もしかしたらまんなかにある結び目がこれらの話をしっかりひとつに結び付けているのかもしれません。それからもっとたくさんの神話たちも。物語の結び目。

アイルランドの妖精たちが何者の末裔なのか、なぜ地下に住んでいるのか、そういうことだったのか、と初めて知りました。
名前しか知らなかったケルト神話の英雄クーフリンの誕生の雄雄しい物語、これはまさに英雄に相応しい話。たくさん出てきた英雄達の中で森で魔法で鹿の姿に変えられた母に育てられたオシーンは心に残ります。
ケルト神話の英雄の条件が武勇に長けている、ということだけではなくて、あらゆる教養を持っている人でなければならない、というのはおもしろい。英雄になる道は、かなり敷居が高いです。ことに詩を吟ずる才能が重んじられたことが、ケルト神話を今に至るまでこの世に伝えたのかな、と思ったりします。
詩もそうですが、呪詛の言葉・・・その言葉を言われたら、そのとおりにしなければ災いがおこる、というような類のもの。言葉というものがとても大切にされてきたような気がします。日本の「言霊」に通じるような、これは世界の神話に形は少しずつ違いながら、共通するものなのかな。

子供向けの優しい語りで、特に代表的なものをかいつまんで紹介した本です。アマゾンの内容紹介に「ファンタジーの永遠の源泉」との言葉があったけれど、まさにそのとおり。この小さな物語たちの中にはたくさんの大きな物語の種が散らばっているように思いました。