ジョー アンド ミー―釣りと友情の日々

ジョー アンド ミー―釣りと友情の日々ジョー アンド ミー―釣りと友情の日々
ジェームズ・プロセック
光野多恵子 訳
青山出版社
★★★★★


筆者ジェームズは15歳のある日、禁漁区で釣りをしているところを森林監視員のジョー・ヘインズに捕まる。
それが縁で、ヘインズはジェームズに釣りを教え始める。
この本はジョー・ヘインズとジェームズ・プロセックの釣りの日々の記録。


わたしは釣りなどしたこともないし、これからもたぶんしないだろうなあ、と思うのです。
夢中で二人が話す釣りの話はほとんどがちんぷんかんぷんなのですが、
それでも、この本のなかに息づく自然への愛、美しい風景の中の、豊かな日々に、心がのびのびとしてくるのを感じます。
森の良い空気をたっぷり吸い込んで、ゆったりといつまでいつまでもこの本を読んでいたい、そんな気持ちになるのです。


ぼくとくらしたフクロウたち (ファーレイ・モアット)を読んだときとちょっと似ている、と思いました。
訳者あとがきの
「なんとも心洗われるエッセイである。水彩画のような淡いタッチで描かれた、コネチカットの四季と釣りの話。ただそれだけなのだが、なぜかゆったりした気分にさせてくれる。」
に大賛成です。
そうそう、挿絵の美しい淡彩のスケッチが、この本の文章にぴったりなのです・・・と思ったら作者の筆によるものでした。
道理で文章と絵のタッチがぴったりなわけです。


15歳のジェームズと白髪交じりのジョー・ヘインズは親子以上に歳がちがうのに、そこにあるのはまぎれもなく深い友情です。
18章にわたるさまざまな釣りや様々な日常の断片。
澄んだ空気と自然の中にこだまのように響き渡る静けさの中で、探り合うようなぎこちない会話から、
互いを知り始め、やがて友情が生まれ、温かい交情が次第次第に深まっていくのを感じます。
ジョーのジェームズを見る目の温かさ、茶目っ気。それが、なんと魅力的に書かれていることか。
作者ジェームズがどんなにこの人を大切に思っているかよくわかる。
ジェームズのジョー・ヘインズに対する信頼、親しみの篭った尊敬がページのあいだにあふれています。

>「お前さん、ジョーの友だちなんだろう」
レズナーがそういった。そんなふうに人からいわれたのは、はじめてだった。でも、それはぼくの心のなかで、ずっと思ってきたことだった。ぼくはヘインズの友だちだ。それもただの友だちじゃない。大親友なんだ。
なんと誇らしげにこのくだりが表れたことか。
ジェームズの控えめな笑顔が目に浮かぶよう。
でもきらめく瞳は幸福と誇りに輝いていたにちがいない。
それから、
>ヘインズはこの町から出て暮らしたこともなく、学校だってハイスクールまでしか出ていない。それでも、ずっと学びつづけるだろう。もっと知りたいという気持ち。おそらく、その気持ちのおかげで、ヘインズはいつも新しい経験をしつづけてきたのだ。そう思うと、たとえわずか1マイル四方の土地でも、一生探求をつづけるのに不足はないことになる。
本当になんて魅力的な人なのだろう。
遠くに行けないから、とか、機会がなかった、とか、時間がない、とか、自分を深めるための努力をしないことの言い訳にはすまい、と改めて思います。
>「だからいつもいってるだろう。毎日、何かしら、新しい経験が待っているものなのさ。(中略)・・・だがおれは毎日、森にいくときに思うんだ。きょうはいったい、どんな新しいことが待ってるんだろうってな。

豊かな時間が流れます。この本を読むわたしのまわりにも。
鮮やかな彩りで移り変わる四季の風景。
たちまちサトウカエデのざわめきが聞こえてきたり、
澄んだ冷たい水の中に美しいレインボウトラウトの魚影を見たり、
森からこちらを見ているシカに気がついたり・・・
そのなかで、低くてほがらかな声でジョー・ヘインズが何か言っている声が聞こえてくる。