夢の車輪―パウル・クレーと十二の幻想

夢の車輪―パウル・クレーと十二の幻想
吉行淳之介
文藝春秋
★★★


パウル・クレーの12の絵に、吉行淳之介の12のとても短い小説が添えられています。タイトルと著者に惹かれて(と偉そうにいってもなんと恐れ多くも吉行淳之介の本なんて一冊も読んだことがないのですが)手に取ったのですが、わたしの想像していたのとはかなり違っていました。
小説は、どれもシュールな夢の物語です。むしろ悪夢かも。
こんな夢を見て目が覚めたら、かなり嫌な気分だろうなあ・・・
12の物語は、必ずしも絵にピッタリ寄り添っている、という感じではないのですが、まったく別物、という感じでもありません。
かなり自由な物語ですが、そこはかとなく絵に対する作者のイメージが感じられる。

パウル・クレーへの偏愛が、昔からつづいていて、その絵はいつも私を刺激し興奮させる
と、作者は言います。クレーに対するただならぬ思いがあってのこと、と思いながら、この12の物語を読むうちに、わたしがクレーに感じていたイメージといってくるほど違うことに気がついて驚いています。

悲しみと孤独の深い深い淵のずーっと底に透明な(そして心ゆるせる)何かがあるような・・・わたしにとってのパウル・クレーの印象はそんな感じだったのですが・・・
吉行淳之介のクレーは、わたしの甘ったれた幻想を打ちのめしました。
クレーの奏でる色の旋律がゆがみ、淳之介の物語と重なり、暗闇の中で、とぼけた会話と官能的な夢がいつしか恐ろしい悪夢に変る。
ナチスに迫害された画家と厳しい時代の日本を生き抜いた小説家。絵と小説をコラボしながら、小説家は先に死んだ愛する画家と魂を触れ合わせようと試みたのかもしれません