コーネルの箱

コーネルの箱コーネルの箱
チャールズ・シミック
柴田元幸 訳
文藝春秋
★★★

>ニューヨークの古道具屋を漁って、古い書物、ポスター、小物などを集め、それらを木箱に収めて、小さな宇宙をつくる。
>人形、白い球、ガラス瓶、バレリーナや中世の少年の肖像、パイプ、カラフルな鳥、金属の輪やぜんまいなどを精妙に配置して作られたそれらの小宇宙は、子供のころ誰もが親しんだ玩具を連想させる一方で、どこか神秘的で、霊的とさえいえる拡がりをもっている。   (訳者あとがきより)
これがコーネルの作った小さな世界です。この本のなかには、カラーのたくさんの美しいコーネルの箱の写真が収められています。
この本を手にとったとき、まず、その美しくシュールな世界に引き込まれました。そして、その写真とともに、シミックの短い散文詩が添えられています。これは不思議なコーネルと言う芸術家に対する詩人シミックのオマージュでしょうか。
>芸術とはすべて、魔法を操ることだ。何なら、新しい幻を希う祈りだと言ってもいい。

>コーネルとディキンソンは、二人とも最終的に知りえない。二人は謎のなかに住んでいる、とディキンソンなら言うだろう。(中略)ディキンソンの詩がコーネルの箱に似て、秘密がしまってある箱だとしたら、コーネルの箱はディキンソンの詩に似て、出会いそうもない物たちが出会う場所である。

箱の魅惑。小さな箱の中の大きな宇宙・・・それは一人で静かに入っていくべき宇宙。
この美しい不思議な箱の写真をここにどのように文字で書いたら説明できるのかわかりません。
色はこういうもので、ここにこんな切り抜きが張ってあって、こんな小さな機械や包みが納まっていて、こちらには、方眼にしきりがあって・・・
こういう説明がなんになるのか。
この作品を説明するために、詩を用いる。こんな方法があったのですね。
コーネルの作品から感じたままに詩人が広げたイメージの世界。神秘的な魔法の箱。でもその魔法が始まるためにはカギが必要。そのカギのありかを詩人が教えた。そして、この本の中から魔法が始まったのです。
眠っている両親のベッドの足元で、マッチ箱を砂漠を渡る車に見立てて遊ぶ少年の詩が好きです。最後の一行がとくに。
   >「しーっ」と父親が怖い声で砂漠の風に言う。

そして、この魔法の中にエミリー・ディキンソンがいることに驚きましたが、彼女の詩とコーネルの箱には無言の架け橋が渡してあるのかもしれません。詩人シミックはそれを詩人の感性で感じ取ったのでしょうか。
では、コーネルの箱をディキンソン色の眼鏡で最初から眺め直せば、また違う世界が生まれてくるような気がします。この不可思議な魔法の向こうからおずおずと出てくる孤独な魂・・・

箱の写真と詩とが、一体になり、切っても切り離せない美しい本になった。
黒い表紙の小ぶりの本、という装丁も好きです。