かりんちゃんと十五人のおひなさま

かりんちゃんと十五人のおひなさまかりんちゃんと十五人のおひなさま
なかがわちひろ
偕成社
★★★★


なかがわちひろさんの新しい本がお雛様のお話ということで、楽しみにしていました。いくつになってもお雛様に対する憧れは消えません。
そして、図書館予約15人待ちで、ひなまつりまでに読めるかな、と思っていたこの本がまわってきました。それもひな祭りのその日に。今日は三月三日。恥ずかしいけど、コッソリ女の子の自分を楽しんでいます。

真夜中、電気もついていない部屋なのに、ぼんやりとあかるく、あたたかく、あまい花のにおいのする部屋での楽しみ。
「わたくしたちも、かりんちゃんにだけは、かざらぬ、ふだんのすがたをおみせいたします。
けれど、ここでおこることの半分は、かりんちゃんの夢。後の半分は、わたくしたち、ひなの夢。」
とのおひめさまの言葉。
めじろに憑依した三人官女たち、しじゅうからに憑依した五人囃子たちの賑々しさ。
かりんちゃんと友だちとのあれこれ。
友だちのさまざまなおひなさまとゆっくりと会うことで表面には見えなかったものが見えてきたり。
かりんちゃんとおひなさまの内緒の冒険。
小さくてかわいい女の子のわくわくが詰まったお話にほこほことうれしくなってしまいます。

かりんちゃんたち三人の女の子がもっている三種三様のおひなさま・・・ひいおばあさまのものだった古いお雛様、おばあちゃん手作りの小さな内裏雛、贈られてきた「あ」と「ん」の犬のお雛様、ピンクがいっぱいのふわふわの段飾りのお雛様・・・いろいろ。
色々なお雛様ですが、このお雛様に託された思いはそれぞれ。そして形ではなく、その思いに触れるたびにどのお雛様も愛しくなっていきます。
この大切な女の子のために、と贈った人の思いに、胸が熱くなるのです。
とくにななこちゃんのおひなさまのお話が心に残ります。かりんちゃんといっしょにおばあちゃんの写真とお雛様を見比べながらの会話が好きです。おばあちゃんの気持ちを改めて確認しながら「でも、なんだか、いまはじめてしったような気がする」というななこちゃんの言葉に、涙が出そう。温かな気持ちがわきあがってくるのです。

この本、もちろんお雛様のお話ですが、
こんなにもあなたが愛しい、あなたが大切、あなたが生まれてきたことがうれしい、あなたが健やかに成長しますように・・・
そんな誰かの祈りに、読者である女の子たちが気づくお話かと思うのです。
そして、きっと本のなかのお雛様やかりんちゃんに話しかけたくなる。「ねえ、聞いて、うちのお雛様はね・・・」

我が家のお雛様も21年目。さまざまな春を、さまざまな顔のわが子たちを見守ってくれました。ありがとうお雛様。子供たちよりも、わたしのほうがうれしくて、面倒くさいな、と言いながら毎年飾っています。来年も再来年も、きっと飾ります。
でも、私の宝物は、ほんとうは5つの千代紙で作ったお雛様。子供たちが幼稚園のとき、ひな祭りのたびに、母達はお雛様を折りました。ささやかだけれど、これがわたしのお雛様です。この千代紙のお雛様をわが子のお雛様と一緒に飾ります。なつかしい大好きな園長先生の笑顔を思いながら。私のお雛様にもわたしの物語がちゃんとあるんですよ。かりんちゃんや花梨の宮のお雛様たちにこっそり自慢したい物語が。
三月三日に思うこと。(今の歳は置いておき)わたし、女の子に生まれてよかったなあ。