サイン会はいかが?

サイン会はいかが?―成風堂書店事件メモ (ミステリ・フロンティア)サイン会はいかが? (成風堂書店事件メモ)
大崎梢
東京創元社ミステリ・フロンティア
★★★★


成風堂シリーズも三作目。
これは一作目と同じ感じの短編集。書店のお仕事の内容やお店の雰囲気、書店員さんたちの書物と書店に対するこだわり、この本の中にもあふれていて、それがやっぱり何よりの魅力。
そう、書店成風堂こそが隠れた(?)主役だ、と感じています。
それから探偵役の多絵ちゃん、ますますいいですね。しっかりした面とドジな面と落差が大きすぎですって。それがなんとも魅力的で。
きびきびと働きつつ、細やかな気配りを忘れないプロ店員の杏子さんも良いです。
ああ、やっぱりこのシリーズは長編より短編のほうがずっと好きだなあ。

さて、一番おもしろかったのは表題作「サイン会はいかが?」ですが、一番すきなのは最後の作品「ヤギさんの忘れもの」です。

「サイン会はいかが?」は、先が気になり、ひたすらぐいぐい読みました。
しかし、あの人気作家、情けない・・・
それにひきかえて、多絵ちゃんはかっこよすぎ。この子はここぞというときは容赦せずにピシッと決める。
でも、最後の謎解きのところで、あそこまで徹底的に断罪しなくてもいいのに、と思ってしまったのですが、杏子さんの「すごくなくてもいいから」という思いに、ふと和みます。そして「引き返すのではなくて、前に向かっている」という言葉が、いい具合にフォローに入っていて、多絵ちゃんの厳しい言葉をやわらかくさらってくれたように感じました。
このふたりのコンビ、やっぱりいいな、と思わせてくれました。

「ヤギさんの忘れもの」は、珠玉の一品という感じでした。
あのお話のなかの「謎」、なんてかわいいんだろう。ほっこりにっこりしてしまいます。(うふ、実はわたし、多絵ちゃんの推理から別の絵本を想像しました。アルバーグ夫妻の。そしたら、うさぎさんのほうでしたね^^)
この話のBGMのように流れる蔵本老人とパートの名取さんの交流がしっとりとしてよい感じです。ことに名取さんのやわらかく温かい人柄が、どの行間からも匂いたつようでした。最後の「お手紙」はうれしかったなあ。
やっぱりこれが一番好きです。そして、こういう作品を本の一番最後に配置するのも素敵に憎いです。

蛇足ですが、本の帯や雑誌の付録がいかに書店泣かせであることか、納得してしまいました。・・・やはり新しい本を買うなら、できるなら帯までパリッとしたものがほしいですもんねえ、買い手としては。売り物を手にとるときは気をつけて気をつけて・・・。
それから、最近は数時間かけての本屋めぐり、なんていう贅沢はできなくなってしまいましたが、やはり、本屋さんに寄る、ということは心躍る体験には違いありません。本を買うときはネットではなくできるかぎり地元の本屋さんで!と誓いも新たにしたしだいです。(おっと、このブログ、本の表紙画像やらなにやら、アマゾンさんのお世話になっているのでした。まあ、なるべく・・・)