悪者は夜やってくる

悪者は夜やってくる悪者は夜やってくる
マーガレット・マーヒー
幾島幸子 訳
岩波書店
★★★★


一口に子どもの本、と言っても、この人はなんて幅が広いんだろう。
最初の本の印象が強いと、読む本読む本、ほんとにマーヒーさん?と何度も著者名を確認したくなるほどに。
そして、その分、特別好きな作品は限られてしまうのですが・・・これは大成功。とってもおもしろかった!

フォーンビィが物語を書くことになったのは、「お話を考えて本を書いてきなさい。よく書けているお話は本にして図書館に入れる」という宿題が出たため。
で、なぜそんな宿題が出たかといえば、職員室にコーヒーメーカーを買ったために図書館の本を買う予算がなくなってしまったから、というのです。
(・・・絶句です。図書館本の価値がコーヒーメーカー以下だなんて。)
もともとこんな面倒な宿題やる気のなかったフォーンビィでしたが、ふとスクゥージー・ムートという名が思い浮かびます。
そしてそれは悪者スクゥージーとしてフォーンビィの目の前に現れ、自分はフォーンビィの本のなかでしか生きられないから、自分が活躍する本を書くようにと脅します。
ところが書き始めた本は妹のミニーによって改ざんされてしまう。
そこで、フォーンビィは物語の主導権を取り戻すための続きを書き、さらにミニーが書き・・・初めは本を書くことを嫌がっていたフォーンビィでしたが、次第に夢中になっていく。
しっちゃかめっしゃかになりそうなのを互いに自分にとってよいように続きを書いて物語をつないでいく、そして「図書館本はコーヒーメーカー以下」のはずの先生や、いじめっこの上級生まで夢中にさせてしまう・・・
大人のいやらしさに対抗する皮肉で痛快な展開は気持ちがよいです。
スクゥジー・ムートも「悪者」とか「その名を知らないものはいない大悪党」などといいながら、なんともお茶目でお間抜けさんで、憎めないのです。
フォーンビィも(お話の中の)スクゥージーも一枚上手の妹にやられっぱなしなのもなんだかおかしくてかわいいです。
そして、お話の主導権の奪い合いがどんどん熾烈になって加速していく。
図書館のパソコンと、お父さんの書斎のパソコンからの、交互の入力合戦(?)は、彼らの物語も佳境、というところで、スピード感が気持ちよいです。
わくわくしつつ、このお話どこにおさまるんだろう、とちょっと心配になってきたところで・・・おさまりかたのセンスもばっちりです。
その3文字が輝かしいこと。

子どものころ、学校の帰り道、友だちとお話を作りながら帰りました。
ひとりが少し話して、続きはもうひとり、そしてもうひとり、また最初にもどって・・・それぞれの個性がいりまじった不思議で楽しい世界。
どんなお話が生まれたのかまるっきり覚えていないけれど、ぐるぐるとお話を続けあい、語り合った帰り道のわくわくは覚えています。そんなことをなつかしく思い出しました。

フォーンビィたちのお話は一応終わりましたが、お話の世界からとび出した登場人物たちはまだまだ暴れまわりたそうな予感。
新しいお話が生まれそうな気もします。
読者としては物語を読む楽しさのほかに作る楽しさも与えられたように思えてうれしくなります。
・・・そしてもちろん、この続きは「宿題にします」なんて野暮なことはいわないでくださいね。