ペニーさん

ペニーさんペニーさん
マリー・ホール・エッツ
松岡享子 訳
徳間書店
★★★★★


読めばきっと好きになるだろう、たぶんいつか読むだろう、いつでも読めるはず、そう思って未読のまま今日まで過ごしてきた本たちのなかの一冊、この絵本は。
ああ、なんてつまらない先延ばしをしていたのでしょう。もしかしたらずーっと読まないでしまったかもしれません。
この絵本を手にとるきっかけを与えてくれたかたに心からありがとう。

ほんとうに愛しい絵本。これはマリー・ホール・エッツの処女作なのです。
ペニーさんの人のよさそうな顔と、動物達の暢気な表情がとてもいい.。
家族(動物達)を助けたいペニーさんと、ペニーさんを助けようとする動物達の心が温かくて・・・これだけあればなんにもいらない。
この絵本にどんな言葉が必要ですか――絵本は答えてくれます。言葉なんて必要ないんだと。
表紙のペニーさんの顔をじっとじっと見てしまいます。
ペニーさんは何も望まない、何も語らない。ただひたすらに愛するだけ。そこに「伝わる」ものがあるのです。ひびきあう心が生まれるのです。
そんなことは言葉で語る必要はないんだと・・・
わたしたちにとって一番たいせつなもの。
最後のページをみてごらん。
家族みんながひとりも欠けることなくいっしょにいる。温かいひだまりのような気持ちのよさ。

古今東西のたくさんの物語があらゆる形で描いてきたそれらのこと。
それを非常にシンプルに語ってくれる絵本です。
ここに物語としての(そして生活の)原点のようなものがあると思います。

ところで、工場で働いていたペニーさんですが、彼が工場で何を作っていたかってことは文中には何も書かれていません。
なのに、絵の中の工場の看板には「あなたのそばに いつも ひとはこ あんぜんピン」と看板が出ている。なんだかほこっと笑ってしまいました。
ペニーさん。安全ピンの工場で働いていたのね。
なんだかいいないいな。どうしてこんなささやかなすてきな設定を考えてしまえるのでしょうか。
そして、もっといいのは、ペニーさんの着ている上着を見てみれば、一つ取れてしまったボタンのかわりに安全ピンでとめているんです。
どうってことないけど・・・これよこれ、このさりげない温かさが大好きなの、とさりげなくできずに騒いでいるわたしでした。