まっくら、奇妙にしずか

まっくら、奇妙にしずかまっくら、奇妙にしずか
アイナール・トゥルコウスキィ
鈴木仁子 訳
河出書房新社
★★★


どこからかやってきて、砂丘の廃屋に住み着いた一人の男。
不思議な男です。彼のやっていることは・・・
まさしく「雲をつかむような話」ではありませんか(笑) おかしいのは、ひょうひょうとマイペースな男と、その「よそもの」を遠巻きにして、まるっきり興味なさそうな顔をよそおいながら物陰から露骨(!)に覗き噂する人々の視線。
この荒唐無稽のはてしない大法螺物語は夢をさそうのですが、町の人々の下卑た野心(?)にさらされると・・・
このオチは、――。描かれていない次のページの絵がくっきりと浮かび上がるのです。
それをどこか遠くで冷たい笑顔が眺めているような気がします。

だけど、何より度肝を抜かれるのは、この絵!
ページを繰るごとに、その絵に、じいっと見入ってしまいます。
緻密、というより緻密で・・・緻密・・・しかもこの吸い込まれるような奥行き。
シュールで、かなりの威圧感があるのに、そこはかとなく感じられるユーモア。

実はこの緻密な絵、なんとシャープペンシル一本で描かれたというのです。
3年の歳月をかけて、400本の芯を使って製作されたというのです。これは、作者の大学の卒業制作だったそうです。
これだけの丁寧な仕事が、一冊の絵本として、わたしたちの手に入るということも不思議な気がします。

不思議な絵本です・・・
これ、印刷ではものたりません。原画を見られたらなあ・・・!