猫のパジャマ

猫のパジャマ猫のパジャマ
レイ・ブラッドベリ
中村融 訳
河出書房新社
★★★


最初に「つねに、そして永遠に猫のパジャマであるマギーに」という献辞。「猫のパジャマは、すばらしい人/ものを意味する俗語」との訳注つき。
そして、著者の序文の副題は「ピンピンしているし、書いている」です――ブラッドベリ83歳での上梓です。とはいえ作品は新旧とりまぜての20本の短編。時代もさまざま。ジャンルもさまざま。でも全部ブラッドベリらしい短編集でした。

序文から楽しませてくれましたとも。

>わが魔物は語る。どうか耳をかたむけていただきたい。
で、読者は舞台の幕が上がるのを知るのです。

しみじみとした詩情あふれる作品があるかと思えば、いたずら心満載のテンポとノリのよさを感じる(ときどき早すぎてついていけない)お祭り大好きブラッドベリが顔をのぞかせたり、ぞっとするブラックジョークもあるし、厳しい風刺もあり、・・・

そして亡き奥様に捧げられた本ですもの、
やはり表題作『猫のパジャマ』の小粋な恋のお話ににっこりしてしまいます。軽やかで小じゃれた会話や舞台、小道具も楽しめました。
『屋敷』もカップルの幸せなお話。ヒロインの名前が奥様と同じマギー、というのもなんだかうふふな感じです。

私が一番好きなのは『さなぎ』でした。夏のほんの数日間の少年の友情。せつなくてはかなくて、かけがえのない数日間に、胸がいっぱいになります。そして、決して感情的な言葉を使っていないのに、「差別」に対するブラッドベリの強い怒りを行間に感じるのです。
たぶん同じ思いで書かれたであろう『ふだんどおりにすればいいのよ』も好き。あきらめとやるせなさ。だけど、このラストシーンに、なぜか漂う温かさに、泣きたくなるのです。
そして、『変身』では、作者はついに自分の怒りをあらわにして牙をむいたようでした。すっごく怖いのですが、逆の立場から見たら痛快でしょう。これ以上の罰はない。

あと、印象に残っているのは――
『酋長万歳』――なんとなんと、いきなり賭けに負けてアメリカ合衆国を全部取られちゃった?ですか? 早いテンポに遅れまいと必死になってついていったけど、こんなオチがくるなんて。まいった〜。他国の人間はただくすくすと笑っていられるんです。
『まさしくオロスコ!シロイケス、然り!』――ある意味目からうろこ。街のらくがきにかたっぱしから額縁を当てて鑑賞したくなっちゃったよ。
『おれの敵はみんなくたばった』――生きる気力ってこんなところから生まれてくるのか。いや、こういう力が案外一番強いのかもしれないですね。おかしくて意地悪くて残酷で皮肉でなんてなんてやさしい友人!

さて、

>彼らの本を大きく開けば 彼らはそこにいるのだから!
と結ばれるエピローグは詩でした。
ブラッドベリは舞台の幕を見事に引いて見せてくれました。

ところで、この本のデザインがまた素敵なのです。開くと、耳のある猫の顔になるんですよ!
図書館本は、開くことができないので、書店に確認に行ってしまいました。いつか文庫になる日には、ぜひこのままのデザインで!(希望)