夏から夏へ

夏から夏へ夏から夏へ
佐藤多佳子
集英社
★★★


塚原直貴高平慎士末續慎吾朝原宣治にそれぞれ話を聞いてまとめたノンフィクション。
2007年8月に行われた大阪世界陸上の400mリレー決勝から、2008年8月の北京オリンピックへ。
夏から夏へ渡された4継のバトンのような本でした。
「一瞬の風になれ」の作者のインタビュアとしての姿勢は素直で力みもなく、1人の平凡な読者の目になってくれることに違和感がなくて、好感が持てました。
第一部の世界陸上大阪大会の実況は、そのスピード感に「一瞬の風になれ」を髣髴とさせられました。臨場感しっかり味あわせてもらいつつも、彼らは高校生ではないのだ、ということを改めて確認しました。。
第二部の、一人ひとりを丁寧に取材した記録では、「スター選手」という遠い存在であった彼らが、そこまでいくための毎日の積み上げのきびしさ、凄まじさがひしひしと伝わってきました。陸上という競技において、人種的(?)ハンデを負った世界の中、わずか一秒未満の差を埋めるための凄まじいまでの日々の鍛錬。そして、使命感。圧倒されました。
特にリザーブ小島茂之さんの話が印象に残りました。

北京オリンピックの決勝をテレビで観戦しながら、この本のなかの末續慎吾選手の「朝原さんにメダルを!」という言葉、その言葉を囲むような円陣が蘇ってきて、胸が熱くなりました。
この本は序章。この本から駆け出してきた選手たちが、第三部を、フィナーレを書き上げてくれたか、と思うようでした。

バトン、夏から夏へしっかり渡りました。