泣けない魚たち

泣けない魚たち (講談社文庫 あ 106-1)泣けない魚たち
阿部夏丸
講談社
★★★★


「かいぼり」「泣けない魚たち」「金さんの魚」、それぞれに、短編、長編、中編、どれも愛知県の矢作川を中心とした田舎町が舞台。主人公は6年生の男の子たち。

>「俺はな、川のことでわからないことは、ぜんぶ魚に聞くことにしているのさ」
これは「金さんの魚」のなかのナマズ捕りの浦さんのことば。


また、「泣けない魚たち」のなかの主人公らの担任「ゴジラ」が、こうすけとさとるの夏休みの工作を「ゆずってくれないか」と頼む場面。

>「あの鳥の巣と石の斧には、、夏休みの宿題なんてもんじゃなく、人間が地球に誕生して、現在にいたるまでの創造というか、その、なんだ、生まれるべくして生み出されたものを、お前たちが無意識のうちに作ってしまった、そんな気がするんだ。」
――あの石斧。こうすけのこれからを思うたびに、いっしょにあの石斧が目に浮かんできます。そして、彼のこれからの、決して楽ではないはずの人生に、不安になるより、力を感じます。彼は、あの石斧で困難な道を切り開いていく。力をもらいます。


遊ぶ。
彼らは、知らず、川のことを話す魚の言葉を聞くだろう。
そうだ、鳥を追いかけるものは空の言葉を、昆虫を追いかけるものは森の言葉を、トカゲやカナヘビをさがすものたちは土の言葉を・・・聞くのだろう。
そうして、ひたすらに遊んで遊んで遊びつくす。 
この本の中の少年たちは夢中で遊ぶ。夢中になりながら、夢を追い、苦しみを乗り越えるための力を獲得しようとし、理不尽なあらゆることに対し、何かがおかしいと感じ、傷つく。そして、それを越えていく。来る日も来る日も、ひたすらに遊びながら・・・どんどんやさしくなっていく。


登場人物は、どの作品も少ないです。でも、ひとりひとりが大切な役割を担っています。子どもたち(そして嘗て子どもだったものたち)ひとりひとりがなんとも言えず素晴らしいのです。
ここまで夢中になって遊べる子ども時代に対してせつないくらいの憧憬。
そして、そんな日々を奪い続けている現代の大人たちの罪深さをも思いました。


作者のあとがきもよかったです。いろいろわが身を振り返り反省です。
「自然にやさしく」「地球にやさしく」という言葉は・・・実際なんとなく気持ちよく聞こえるものです。今まで、こういうコピーに違和感を感じたことはなかった、と思います。(わたしも机上の人間です)
自分のなかでこなれてもいないのに(川の声も聞かず、空の声も聞かず)ただ唱えてみたところで何の意味もない、お題目にすぎないのですね。むしろ、思考停止状態に陥っているのかもしれません。これはこわいです。


**後日記**
手許に持っていたくて文庫本版を買いました。そしたら・・・がーん、作者あとがきが入っていないのです。残念だわ・・・