わたしのマトカ

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片桐はいり
幻冬社
★★★★


群ようこさんの「かもめ食堂」を読んだ後すぐ予約して、やっと回ってきた本。5ヶ月待ちでした。
表紙がとてもきれいで気に入っています。(針葉樹のあいだにクマやトナカイ、ウサギが隠れているんですよ)

映画「かもめ食堂」撮影のため、八月の半ばから九月のおわりまでの片桐はいりさんのフィンランド滞在記。
様々なエピソード、仕事がすんだあとの九月のファームステイのサウナの一件も面白かったし帰国後の思わず喝采したくなる最高の(女神のごとき)「フィンランド呆け」も捨てがたいけれど、
一番心に残ったのは、「食べる」話でした。

どこぞの首相に「ヨーロッパで英国よりまずいものを食べているのはフィンランドだけだ」と言われた、というまさにそのフィンランドの一風変わった食事を心から堪能しつつ、日本の大根おろしや蕎麦をなつかしむはいりさんの食文化、というより、好奇心の旺盛さがすてきだ。
ロケ地に毎日お弁当を届けてくれたスオミ食堂(かもめ食堂のモデルでもある)の三人のスタッフに「毎日のお料理すばらしいです」とお礼を言うところが好き。

>お料理のお礼を伝えた時の、あの幸せな笑顔は決して忘れない。まるで炊き上がったばかりのお釜をあけたときみたいに、もわあと幸せな湯気が上がり、あらわれた笑顔は白くつやつやと輝いた。
炊き立てのご飯みたいな笑顔の人たちが作る料理がまずいはずはない。・・・
まるで、群ようこさんの本「かもめ食堂」のコンセプトみたいで、ここを読んでいるわたしも幸せになった。
滞在中、あちこちを地図片手に、フィン語も知らぬままにさまよい、迷子になることすら楽しむはいりさんの好奇心の源は食べることにあるような。

そういえば、わたしが今まで会ったうち、
ごはんをおいしそうに食べるひとに、
何でも目の前に出されるものに「これは何かしら?」ととりあえず味わってみようとする人に、
飛び切りの笑顔で「ご馳走様」が言える人に、
悪い人はいなかった。みんな素敵な人だった。
そうだ、食育。
おいしいおいしい、と何でも食べられる子に育てること、って、栄養とかだけではなくて、もっともっと、凄く大事なんじゃないだろうか。
その人の生きる姿勢に関係するような。人生そのものを豊かにするような。そして、わたしも好き嫌いを克服しよう。新しい味にどんどん挑戦したいものだ。と奇妙な感想を持ったのでした。

しかし、この酷暑にヒーヒー言っているときに、

「東京は地獄の熱帯夜ですか?
 こちらは透明な風が吹き抜ける白夜の夕暮れです。
 今は夜の六時ですが、外では子どもの遊ぶ声が聞こえます。
 まだまだ日暮れは遠いのでわたしもこれから遊びに出かけます。」
なーんてメイルが届いたら、うらやましくて悶絶しそうになるだろうな。

女優の片桐はいりさんも良いけれど、文筆家としての片桐はいりさんを好きだと思った貴重な一冊。「グァテマラの娘」もいつか読んでみましょう。